「早速で悪いが、これを頼む…」
真魚が懐から何か紙を出した。
そして、木樵の頭に見せた。
「お主、これを…一人で考えたのか…」
頭の顔が険しくなった。

「俺たちは木樵だぞ…」
「大工がいるなら雇ってもいい、見かけはどうでもいい強さだ…」
その紙に書かれた堰の作り方。
それは理にかなったものであった。
木樵であってもそれはわかる。
「急がねばならない、今からその場所に行く」
真魚がそう言って、頭を呼んだ。
「木を運ぶ準備をしておけ!」
頭が男達に言った。
「みんな、頼んだわよー!」
菜月が叫んだ。
「ちぃっ!あいつは一体何者なんだ…」
「結局、仕事を増やしただけだ!」
崑が怒りを表面に出している。
「お頭が勝てぬ男など、見たことがない…」
谺は真魚の力に驚いていた。
「お頭だって負けることはあるさ!」
崑は事実を受け入れていない。
「違うんだ、崑!お頭は全く動いてないんだ…」
「何か術を使ったのではないのか?」
「俺にはそうとしか思えん」
崑が見たものと、谺が見たもの…
同じ出来事が、全く違うかのようだ。
起こった事は同じだ。
問題は、受け取る側に存在するのだ。
「俺は…あの男を信じて見るよ」
谺が崑に言った。
「俺は、お頭のいうことは聞いてやる、それだけだ!」
崑が谺に言った。
信じて動く者。
疑いを持って動く者。
人はそれぞれの価値観で生きている。
例え、行動や結果が同じであっても。
たどり着ける場所が違う。
選択し、行動を起こした瞬間。
既に、違う世界に生きていると言う事なのだ。
真魚と木樵の頭は、堰を作る場所を見に来ていた。
菜月と桜もついて来ていた。
指定した場所は、村から見えるほど近い場所であった。
「ここから順に上に向いて作って行く」
真魚は木樵の頭に説明を始めた。
「ここなのか…もっと上の方が良いと思うのだが…」
木樵の頭の言う事には理由があった。
「ここまで来れば、水の勢いも相当なものになるぞ…」
「出来れば三つの堰を作りたいのだ…」
「徐々に勢いを止めたい…」
「三つもか!」
頭は真魚の考えに驚いていた。
村を守る為に、三つは必要だと考えている。
それだけのことが起こる。
そう思ったからだ。
「それに…ここなら村からも見える…」
真魚が言った。
「それが、どうかしたのか…」
木樵の頭が怪訝な表情を見せた。
「そうか!」
菜月が叫んだ。
「ここなら、村の人にも分かる!」
菜月の波動が広がっていく。
「なるほどな…」
桜が感心していた。
「お主らは、何を言っているのだ…」
木樵の頭には、その意図が全く理解できなかった。
「村の人にどう伝えたらいいのか、迷っていたの…」
菜月がその理由をお頭に話した。
「たきばあちゃんの事があってから、村の人は信用しなかった…」
「だけど、それは起こっっていたの…」
「でも、村には被害がなかった…」
「あの時はね…」
菜月はその事実にたどり着いていた。
「見直したわ、菜月…」
桜も菜月のその考えを受け入れていた。
「でも、堰を見たら村の人も気がつく…」
「あれは、何の為に作っているのだろうって…」
菜月はその未来を見ていた。
「そして、誰かが動く…」
「あの土砂でせき止められた、湖を見に行く…」
「誰かに言われたのではなく、自分から動く…」
「自分が創り出した未来は、疑わない…」
「それが、村中に広がっていく…」
桜も同じ未来を見ていた。
「なるほど…そういうわけか…」
木樵の頭もようやく理解出来たようだ。
「三つ出来れば村は助かるだろう…」
「だが、それまで土砂が保つかどうかは分からぬ…」
真魚はそう見ている。
「間に合わなければ…」
木樵の頭が最悪の未来を見ていた。
「逃げ場は必ず確保しておくのだ、その時は必ず来る…」
「村人も逃げる必要がある」
「それとなく…噂を撒いてもらえれば助かる…」
真魚は木樵の頭に、考えの全てを伝えた。
「早い方がいいな…」
木樵の頭が言った。
「そうだな…」
真魚がそう答えた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-