はぁはぁ…
息が切れている。
塊が太った身体を懸命に運んでいた。
陽炎の家は坂を登った上にあった。
見晴らしがいい村の一番上だ。
だが、今の塊にそんな事は関係ない。
その高さが恨めしいだけだ。
纏わり付くものに牽かれるように、思うようには進めない。

年月は塊の身体を変えてしまった。
だが、それも全てを他人任せにしてきたせいだ。
自ら創り出した不条理が憎しみに変わる。
全ての責任を他人に押しつける。
塊はそうやって生きてきた。
動かない身体。
動けない身体。
自ら生み出したものが、今なのだ。
「あの男…ただではおかぬぞ!」
いつの間にか、その矛先は真魚に向いている。
誰でも良い。
攻撃することが自分を守る。
自分は悪くは無い。
悪いのは常に自分以外の誰かだ。
息苦しさが続けば続くほど…
憎しみは膨らんで行く。
幻想という敵に対して…
自らが生んだ苦しみの理由を、この男は気づいていない。
「おっ!」
塊が石につまずいて転んだ。
手をついたが間に合わなかった。
顔を地面にぶつけた。
「くそおぉぉぉ!」
それがきっかけであった。
真魚が突然、小屋から飛び出した。
「塊か!」
そのものの方向を見た。
真魚はその波動をそう捉えた。
「丁度いい…腹が空いていたところだ…」
嵐が笑っていた。
「なんだ!これは!」
陽炎は既に気づいている。
「まさか…兄上か!」
「そんな筈は…」
いつもとは違う、覚えのある波動。。
寒気がする。
全ての生命が奪われる。
陽炎はその波動に戸惑っていた。
「これは、どういうことだ?」
陽炎が真魚に聞いた。
「どうやら扉を開いてしまった様だ…」
「何の扉だ…」
陽炎は、聞きたくないその答えを待っている。
「禁断の扉だ!」
真魚の答えは陽炎を驚かせた。
「禁断の扉だと…」
陽炎はその意味が分かるような気がした。
陽炎は大いなる光を見た。
全ての理を感じた。
「表があるなら、裏があると言うことか!」
陽炎がその理に気づいた。
「そうだ、この世は二極…」
真魚が言った。
「闇の扉だ…」
その答えを陽炎に告げた。
「そうか…」
陽炎は額を押さえた。
頭痛がする。
闇の扉の向こうから、何かが呼んでいる。
「この感じ…どこかで…」
陽炎の記憶の中。
だが、その答えは見つからない。
「ほう…」
真魚が笑みを浮かべた。
坂を登る塊の後ろ。
巨大な闇が口を開けて待っていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-