木に結び付けた金色の布。
その布が屋根の代わりをしている。
村はずれの森。
後鬼はその奥で、奏と響を匿うことにした。
既に前鬼はいない。
仕掛けを張るために場を離れている。
「念には念を入れておかねばな…」
後鬼がそう言って大きめの鈴を入り口にぶら下げた。
「何の鈴なの?」
奏は好奇心に負けた。
聞かずにはいられなくなった。
「爺さんの仕掛けにかかると、この鈴が鳴る…」
後鬼が別のことをしながら答えている。
「ふ~ん」
奏は鈴を眺めている。

「しばらくの我慢じゃ…そう時間はかかるまい…」
後鬼はそう考えていた。
「あれって…何なのかな…」
「苦しんでいる様にも、悲しんでいる様にも感じたけど…」
響が感じた波動のことを考えていた。
「恐らく、あの祈祷師が全て知っておるはずだ…」
後鬼が見た事実。
感じた波動。
後鬼にはおおよその見当がついていた。
「稜に関係があると言うこと…?」
奏は稜のことを心配していた。
「何もないのに真魚殿が連れていくわけがない」
後鬼が言った。
そのことは奏と響も納得している。
「お父さんがいなくなったことと、関係あるのかしら…」
「稜の父の事か?」
奏の言葉に後鬼が確認を入れる。
「稜の父も、私達の父も…同じ頃だった…」
「奏と響の父は、狩りが得意であったようじゃな…」
「この村で一番の弓の使い手よ…」
「それはいつ頃だ…?」
後鬼は気になっている。
「菫が殺されてからかな…八年ほど前かな…」
「八年保ったのは生け贄のおかげか…」
後鬼がそうつぶやいた。
「それはどういうことなの?」
奏と響が同時にそう言った。
「面白いな…その心…」
後鬼がそう言って笑った。
「見覚えがあるのか?」
真魚が稜に聞いた。
「なんとなく…そんな感じがする…」
見た目にはもう誰だか分からない。
だが、確かに稜は感じていた。
黒い塊。
全体的には人の形のように見える。
表面が波打って揺れている。
形を変えながら動いていく。
人には見えないが人のようでもある。
重き波動。
その波動の中にそれらは隠されていた。
悲しみ。
苦しみ。
寂しさ。
稜はその波動の中にそれらを感じていた。
「何だか胸が苦しい…」
稜がそう言って胸を押さえた。
「俺の波動の中でそれか…」
嵐がそう言って稜をからかった。
高きものは低きに流れ。
低きものは高きを求める。
二つのものが触れ合うとき、お互いが混ざり合おうとする。
稜の胸の痛みはその現れの一つだ。
「感度は高いが、それだけではな…」
真魚がそう言って稜の肩に手を置いた。
ぴくん!
稜の身体が跳ねた。
「治った!」
稜は驚いていた。
「どうする?」
嵐が真魚に聞いた。
「村人を襲うようなことはあるまい…」
「どうしてそんなことが言える…」
嵐は真魚の言ったことが、納得出来ない。
「餌を見たからだ…」
真魚がそう言った。
「餌だと…」
「なるほどな…これは極上だ…」
嵐がその答えには納得したようだ。
「餌って何の事?」
稜が気になって真魚に聞いた。
「そこにおるではないか…」
嵐が首を振っている。
「ひょっとして…俺?」
稜が気づいて自分を指さした。
「稜と奏と響…」
「その波動を感じて、動き始めたのではないのか?」
真魚がその事実を言った。
「これは、お主らで解決せねばな…」
真魚がそう言って、そのものを見ていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-