空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その十七 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話






木に結び付けた金色の布。
 

その布が屋根の代わりをしている。
 

村はずれの森。
 

後鬼はその奥で、奏と響を匿うことにした。
 

既に前鬼はいない。
 

仕掛けを張るために場を離れている。
 


「念には念を入れておかねばな…」 


後鬼がそう言って大きめの鈴を入り口にぶら下げた。



「何の鈴なの?」


奏は好奇心に負けた。
 

聞かずにはいられなくなった。
 

「爺さんの仕掛けにかかると、この鈴が鳴る…」


後鬼が別のことをしながら答えている。
 


「ふ~ん」


奏は鈴を眺めている。

 

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「しばらくの我慢じゃ…そう時間はかかるまい…」


後鬼はそう考えていた。
 

「あれって…何なのかな…」


「苦しんでいる様にも、悲しんでいる様にも感じたけど…」


響が感じた波動のことを考えていた。
 


「恐らく、あの祈祷師が全て知っておるはずだ…」


後鬼が見た事実。

 

感じた波動。
 

後鬼にはおおよその見当がついていた。
 


「稜に関係があると言うこと…?」


奏は稜のことを心配していた。 
 


「何もないのに真魚殿が連れていくわけがない」


後鬼が言った。
 

そのことは奏と響も納得している。



「お父さんがいなくなったことと、関係あるのかしら…」



「稜の父の事か?」


奏の言葉に後鬼が確認を入れる。
 


「稜の父も、私達の父も…同じ頃だった…」
 


「奏と響の父は、狩りが得意であったようじゃな…」
 


「この村で一番の弓の使い手よ…」 



「それはいつ頃だ…?」


後鬼は気になっている。
 


「菫が殺されてからかな…八年ほど前かな…」




「八年保ったのは生け贄のおかげか…」
 

後鬼がそうつぶやいた。
 


「それはどういうことなの?」



奏と響が同時にそう言った。
 


「面白いな…その心…」



後鬼がそう言って笑った。
 






「見覚えがあるのか?」


真魚が稜に聞いた。
 


「なんとなく…そんな感じがする…」


見た目にはもう誰だか分からない。
 

だが、確かに稜は感じていた。

 
黒い塊。
 

全体的には人の形のように見える。
 

表面が波打って揺れている。
 

形を変えながら動いていく。
 

人には見えないが人のようでもある。
 


重き波動。

 
その波動の中にそれらは隠されていた。

 

悲しみ。
 

苦しみ。
 

寂しさ。
 

稜はその波動の中にそれらを感じていた。
 


「何だか胸が苦しい…」
 

稜がそう言って胸を押さえた。
 


「俺の波動の中でそれか…」


嵐がそう言って稜をからかった。
 

高きものは低きに流れ。
 

低きものは高きを求める。
 

二つのものが触れ合うとき、お互いが混ざり合おうとする。
 

稜の胸の痛みはその現れの一つだ。
 


「感度は高いが、それだけではな…」


真魚がそう言って稜の肩に手を置いた。
 

ぴくん!

稜の身体が跳ねた。
 

「治った!」

稜は驚いていた。
 
 
「どうする?」


嵐が真魚に聞いた。
 

「村人を襲うようなことはあるまい…」


「どうしてそんなことが言える…」


嵐は真魚の言ったことが、納得出来ない。
 


「餌を見たからだ…」


真魚がそう言った。
 

「餌だと…」
 

「なるほどな…これは極上だ…」


嵐がその答えには納得したようだ。
 


「餌って何の事?」


稜が気になって真魚に聞いた。
 

「そこにおるではないか…」


嵐が首を振っている。
 

「ひょっとして…俺?」


稜が気づいて自分を指さした。
 

「稜と奏と響…」


「その波動を感じて、動き始めたのではないのか?」


真魚がその事実を言った。
 


「これは、お主らで解決せねばな…」


真魚がそう言って、そのものを見ていた。





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続く…

-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
    実在の人物・団体とは一切関係ありません-