少女が斧を見つけ手に持った。
「邪魔をするとあんたらも殺すよ!」
少女は痛みを抱えて走り出そうとした。

『あんたらも殺す…』
その言葉の中に殺意が存在している。
膝から血が落ちている。
足下に伝う血。
だが、それは少女の心そのものであった。
心が血を流している。
その怒りは、深い悲しみの裏側であった。
「仕方ない奴だ…」
嵐がそう言って霊力を開放した。
少女の身体が一瞬浮き上がる。
本来の姿の嵐が、少女の前に回り込んだ。
「俺を殺してから行くか?」
嵐の姿に腰を抜かした。
少女は座り込んだまま立てなくなった。
「ほ、本当に神様なの…」
少女はそう言って泣き出した。
感情が乱れている。
地面に頭を擦りつけ、喘ぐようにして泣いた。
呻いている。
その心の苦しみと悲しみをはき出している。
真魚と嵐はしばらく少女を眺めていた。
感情の揺らぎが落ち着くまで待っていた。
「一体、何があったのだ…」
しばらくして、真魚が少女の頭を撫でた。
真魚の波動が少女を包んでいく。
「えっ!」
少女は驚いて顔を上げた。
何かが心をすり抜けた。
そんな気がした。
「話を聞こう」
真魚がそう言って笑った。
嵐はすでに子犬の姿に戻っていた。
山の灯り。
そこには社があった。
それほど大きい規模ではないが三つの社が建っていた。
その社までは石段で繋がっている。
数百段はあるだろう。
その階段を上った所にそれはあった。
「おかしな波動に引き寄せられて来てみれば…」
前鬼であった。
一番高い木の上から見下ろしていた。
山伏の様な格好をして、背中に笈を担いでいる。
「これは…どういうことじゃろ…」
後鬼であった。
後鬼は赤い袴をはいている。
村人のほとんどが集まっている様だ。
皆、銘々に灯りや松明を持っている。
「これから何処かに向かうのか…」
前鬼がそう考えていた。
この場にこれほどの灯りは必要ない。
しかも、今日は満月だ。
「さて、何だか様子がおかしいのじゃが…」
重い波動。
真魚がそう表現したものを、後鬼も感じていた。
ドン!
太鼓が鳴った。
皆がその方向を見た。
ドン!
ドン!
社の中央。
数人の男が御輿を担いで立っていた。
だが、ただの御輿ではない。
板の御輿の上に縛られた少女が座っていた。
その前に、いかにも呪術師のような老婆が立っていた。
「これは…どういうことじゃ…」
木の上の後鬼がつぶやいた。
「おそらく…」
後鬼は言いかけたが口を噤んだ。
「真魚殿に…」
「そうじゃな…」
二人の考えは同じであった。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-