その日の夕餉は竹の子づくしであった。
おまけに山鳥も少しであるが手に入った。
それを他の野菜と一緒に大鍋に入れて煮た。
それだけでも、鳥の出汁が効いておいしかった。
その鍋に、真魚が瓢箪から何かを出して入れた。
この隠し味がさらに深みを与えた。
「おーこれはうまいぞ!」
嵐は感激していた。
この頃には鉄斎にも嵐が神であることがばれていた。

「儂も長い間生きておるが、こんなに美味いものは初めてだ」
鉄斎がそう言うのであるから、彩音も我夢も同じ思いであることに疑いはない。
鍋一杯にあったものがあっという間に消えて無くなった。
その犯人が誰かは言うまでも無い。
「竹の子がこんなに美味いとはな!」
生で食った竹の子も美味かったが、煮た味にも嵐は感動していた。
「そうだ、竹の子で思い出したが、竹林の竹が一本切られておったぞ!」
嵐が見つけたときの状況を説明する。
「見事な切り口であった」
「あの男か…」
真魚は気づいている。
「刀であれほどの竹を切り倒したのだ」
「立っている生きた竹をな」
嵐があの男しかいないと言っている。
その切り口には竹一本分の重みがかかるのだ。
その重さも含めて切ることになる。
「儂が作った刀だ」
鉄斎が言った。
「何!」
皆が驚いた。
「奴は儂が作った刀を奪ったのだ」
鉄斎がその時を思い出している。
「儂が龍牙と名付けた刀だ」
「その切れ味は儂が作った中で最高のものだ」
「それならあの切り口もわかる」
嵐が納得している。
「鉄斎殿の刀とあの男の腕…」
真魚は思考の中でその切れ味を見た。
我夢はその話を聞いて呆然としている。
自分と彩音の傷は鉄斎の刀で付けられたものであった。
父と母を切ったのも鉄斎が作った刀だ。
「刀は人を切る…人を殺める…」
鉄斎はつぶやいた。
「儂の作った刀が罪もない人を殺めたのだ」
鉄斎はその事に苦しんでいる。
「だが、刀は人を生かすことも出来る」
真魚がそう言った。
鉄斎はその真魚の言葉に揺れた。
「人を守れば生かした事になる」
真魚が言った。
鉄斎は心の雲が晴れていくような気がしていた。
「武器というのはそう言うものだ」
「鉄斎殿は間違っていない」
鉄斎は真魚の言葉がうれしかった。
その瞳に涙がこみ上げる。
「全ては使い手の心が決める」
真魚の言葉が鉄斎の心に響いている。
わかってはいる。
だが、その苦しみの時は止まったままだ。
心はまだ許していない。
自分の刀が我夢と彩音の闇を作ったのだ。
その事実は変わらない。
「龍牙を超える」
鉄斎が言った。
その瞬間、何かが変わった。
鉄斎の心の中に何かが灯った。
心の中で止まっていた時が動き出す。
真魚の口元に笑みが浮かぶ。
「我夢と共に龍牙を超える」
それは鉄斎の決意であった。
「出来るのか…俺が…」
我夢は半信半疑だ。
「そのために真魚殿が来たのかも知れぬ…」
「あの鉄を持って…」
鉄斎はそう考えている。
「どのようにして超えるのだ、龍牙を…」
そう言った真魚の口元に笑みが浮かんでいる。
その時…
「そうか!」
鉄斎が急に叫んだ。
「そうだ!」
我夢は鉄斎がおかしくなったのかと思った。
「わかったのだな」
真魚は気づいていた。
「はは~ん」
嵐も何となく気がついている。
鉄斎の心の波動が上がる。
その瞳に光が宿る。
「龍牙を超える方法が…」
我夢も感じていた。
「その手があった!」
鉄斎のその決意は輝き始めた。
鉄斎の闇が光に変わろうとしていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-