日が傾き始めていた。
真魚に祈りが届いていた。
その波動は切なく美しい。
それは彩音の心であった。
彩音の願いであった。
「彩音か…何だか切ないなぁ…」
それを聞いている嵐がいる。
「気になるのか?」
真魚がからかう。

「人というのは、どうしていつもこうなのだろうと思ってな…」
嵐が嵐らしくないことを言っている。
「人の世を憂うなど珍しいではないか」
真魚はそういいながら、その変化を気に入っている。
「神であるお主とは見えているものが違う」
「理解する方が難しい」
真魚は事実を言った。
「あの鳥は何故飛んでいるのだ、と言っている様なものだ」
真魚は飛ぶ鳥を見てそう言った。
「彩音を迎えに行く!」
嵐が急にそう言った。
嵐は本来の姿になり飛んだ。
「やれやれ…」
真魚を置いて嵐は行ってしまった。
楠の祠のまで彩音は祈っていた。
「毎日祈っているのか?」
彩音の背中から声が聞こえた。
「あっ!」
彩音は驚いた。
そこに本来の姿である嵐がいたからだ。
「乗れ!この辺りは危険だ…」
嵐がそう言って地面に座った。
「…」
彩音は少しためらったが直ぐに背中に乗った。
「しっかりつかまっておれ!」
嵐がそう言うと飛んだ。
「あきゃ~~~~~」
悲鳴とも取れる叫び声を彩音は上げた。
「行くぞ!」
嵐は高度を上げた。
「わ~~~~~~」
彩音は目を閉じていた。
あまりの速さについて行けなかった。
嵐が止まった。
星の丸みが見える高さまで来た。
嵐の霊力で守られていなければ人は死ぬ。
彩音は勇気を出して目を開けてみた。
「あっ!」
目を疑った。
美しい世界。
星の青と宇宙の黒。
輝く無数の光。
彩音は感動していた。
彩音の鼓動が聞こえる。
見たことがない…
この世界が広がっていた。
「あ…」
彩音が何かを感じている。
「目を閉じて感じてみよ、本当の世界が見える」
嵐は彩音に言った。
「あ…」
生命の波動が溢れている。
この星の全ての生命が輝いている。
目を瞑っていてもその輝きが見える。
彩音の波動が高まる。
波長が上がっていく。
それは嵐にも伝わっている。
「ああっ!」
彩音の中で何かが弾けた。
彩音がそれを抱きしめている。
自らの心を抱きしめている。
彩音の身体が輝きはじめた。
「…」

彩音が嵐にしがみついた。
頬をすりつけている。
『ありがとう』
嵐にはその言葉が聞こえている。
「行くぞ!」
嵐はそう言うと急降下を始めた。
「きゃあ!」
彩音が叫ぶ。
楽しんでいる。
その波動が聞こえる。
彩音が感じ取ったものは嵐にはわからない。
だが、心の波動は嘘はつけない。
彩音が手に入れたもの…
それは、嵐の想いでもあった。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-