「玄武!」
真魚が呼ぶ。
光の盾が現れ若い男を包む。
闇は既に黒い塊になっている。
嵐が全ての足を食いちぎったのだ。
だが、油断は出来ない。
奴らに元々形などない。
真魚の光の輪が発動する。
真魚の身体が輝くと共に、青い光が棒に集まっていく。
七つの輪が高速で回る。
真魚の光の波動が広がる。
「青龍!」
青い光の粒は真魚の頭上で龍となった。
そして、闇に向かってその顎を開け飛び込んだ。
闇の塊は青い光に包まれる。
青龍が首を上げると闇は黒い砂塵となって消えた。
青龍は真魚の棒の中に消えていった。
「何かおかしくないか?」
嵐が真魚に聞いた。
「あの男…」
年配の男が消えていた。
「おい、お前!」
真魚の背中から声がした。
「呼んだのが聞こえぬのか!」
そう言われて真魚はようやく振り返った。

男は気が短いらしい。
剣を肩に担いでいる。
「面白い剣を持っている…」
先に真魚が話しかけた。
「!」
その男は驚いていた。
「これがどういうものか…」
その男はその剣を掲げた。
「見たことがある」
「それはこの国のものではない」
真魚はそう答えた。
「そうだ、これは異国の剣だ…」
その男は明らかに真魚の言葉に動揺していた。
「そして、これは父の形見だ…」
男の父が異国の人間である可能性は高い。
「あの男はだれだ?」
「仇討ちでもする気だったのか?」
真魚が若い男に気になっている事を聞いた。
「俺の敵だ、名は知らぬ…」
「だが、俺の顔に傷を付け、親父を殺した男だ」
若い男が歯を噛みしめる。
「お主は生かされた訳か?」
真魚は男にそう聞いた。
「どういう意味だ!」
「生かしておけば、今日のように戦えるではないか」
真魚がそう言った。
「奴は、楽しむ為に人を殺していると言うのか!」
男の怒りは治まらない。
「そうでもあるし、そうでもない」
「何を言っているのだ、貴様は!」
男には真魚の考えが理解出来ない。
「先ほどの化け物を怖いと思ったか?」
「怖いものか…」
男はそう言うが、言葉の波動が乱れている。
嘘であることは明白である。
「あの男は愛しげに見つめていたぞ…」
真魚は男にそう言った。
真の恐怖を愛しいと感じる男。
「今のお主に奴は倒せぬ」
真魚が男にそう言った。
「奴があの闇を引き連れて来たなら尚更だ」
真魚はきっぱりそう言った。
「あれを奴が…」
男は呆然と宙を見ていた。
先ほどまでそこに闇があった。
その恐怖を思い出していた。
真の恐怖…
だが、それは自らが作り出したものだ。
男はその事に気づいてはいない。
「操れる訳ではなさそうだがな」
真魚がそう言った。
「真魚、先ほどの娘が気になる」
嵐が真魚に言った。
「喋るのか…その山犬は」
男は驚いている。
「俺は神だ!」
嵐が言った。
「神…?」
「ちょっと待て、娘というのは左の頬に傷がある娘か?」
「そうだ」
嵐が答えた。
「彩音がどうかしたのか?」
「あの娘を知っているのか?」
真魚に考えが浮かぶ。
「あの男に彩音の父も殺されたのだ」
男はそう言った。
「あの傷はその時に付けられたのか?」
真魚が核心にに触れる。
「そうだ」
男はその時のことを思い出している。
「その時に言葉を失ったのだな」
真魚は全てを理解した。
「そうだ」
この男も同じ傷を抱えている。
「真魚…」
嵐が気づいた。
彩音の祈りが聞こえる。
「哀しい祈りだ…」
真魚はその祈りの波動を聞いている。
その切なさに触れている。
「彩音が祈っている…?」
だが、この男の心にその祈りは届いていなかった。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-