空の宇珠 海の渦 第五話 その五十五 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話



はぁ、はぁ、はぁ…
 


息が切れた。
 
山の中の獣道を駆け上っていく。
 
三輪山。
 
大物主が祀られている。
 

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「真魚…嵐…」
 
壱与はその異変に気づいた。
 

何かとてつもない事が起こっている。
 

何かはわからない。
 
だが、胸騒ぎがする。
 

確かめたい。
 

ただそれだけ考えていた。
 
胸を打つ鼓動の速さに驚く。
 
こんなのは記憶にない。
 

「待ってられない!」


壱与は光の輪を発動させる。
 

身体が輝き始める。
 

光を身に纏う。
 

走りながらそれをやってのけた。
 

その離れ業を理解できるのは真魚だけだ。


頂上についた時には光が溢れていた。
 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…


息を整えるまでには少し時間がかかった。
 

岩に向かい手を合わせた。
 
生命(エネルギー)を開放させる。
 
壱与の周りに光の渦が舞い上がる。
 

「大物主様、伺いたいことがございます」

「どうか、壱与に力をお貸しください」
 
壱与は祈った。
 

生み出した生命(エネルギー)にその言葉を載せた。
 

その言葉が生命と共に光の扉に向かう。


その扉は全ての人の中に存在する。 


その言葉は扉を開く鍵。
 
その想いは鍵を回す力。
 


ゆっくりと扉が開く。
 

光が溢れる。
 

その光が降り注ぐ。
 

光の粒が粉雪のように舞い降りてくる。
 

光の道が創られていく。
 

岩の上に光が降り積もる。
 

その粒が形を取り始める。
 

神がその姿を現した。
 

大物主の神であった。


「大物主様!私に力をお貸しください!」
 
壱与は目を瞑っていた。
 

「何かが起ころうとしています」

『また、あいつか…』 


大物主の神は真魚のことを知っていた。
 

「ご存じなのですね」
 
言葉で話しているのではない。
 
情報を交換しているのだ。
 
神は全ての答えを持っている。
 
全ての答えが返ってくる。
 

そこに思考というものは存在しない。
 

全てがあるのだ。
 

壱与は回路を繋ぐ。
 
壱与の意識の中に映像が浮かぶ。
 

巨大な渦巻く闇が暴れている。
 

『面白いことが起こっておるな…』
 

『北の大地で…』  


壱与は飛んだ。
 
蝦夷の地まで。
 

『取り込まれる、気をつけよ!』
 
「はい」


壱与は空の上から見ている。
 

「やっぱりいた!」


真魚がいた。
 
嵐がいた。
 

壱与はその想いを見つけた。


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続く…