はぁ、はぁ、はぁ…
息が切れた。
山の中の獣道を駆け上っていく。
三輪山。
大物主が祀られている。

「真魚…嵐…」
壱与はその異変に気づいた。
何かとてつもない事が起こっている。
何かはわからない。
だが、胸騒ぎがする。
確かめたい。
ただそれだけ考えていた。
胸を打つ鼓動の速さに驚く。
こんなのは記憶にない。
「待ってられない!」
壱与は光の輪を発動させる。
身体が輝き始める。
光を身に纏う。
走りながらそれをやってのけた。
その離れ業を理解できるのは真魚だけだ。
頂上についた時には光が溢れていた。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…
息を整えるまでには少し時間がかかった。
岩に向かい手を合わせた。
生命を開放させる。
壱与の周りに光の渦が舞い上がる。
「大物主様、伺いたいことがございます」
「どうか、壱与に力をお貸しください」
壱与は祈った。
生み出した生命にその言葉を載せた。
その言葉が生命と共に光の扉に向かう。
その扉は全ての人の中に存在する。
その言葉は扉を開く鍵。
その想いは鍵を回す力。
ゆっくりと扉が開く。
光が溢れる。
その光が降り注ぐ。
光の粒が粉雪のように舞い降りてくる。
光の道が創られていく。
岩の上に光が降り積もる。
その粒が形を取り始める。
神がその姿を現した。
大物主の神であった。
「大物主様!私に力をお貸しください!」
壱与は目を瞑っていた。
「何かが起ころうとしています」
『また、あいつか…』
大物主の神は真魚のことを知っていた。
「ご存じなのですね」
言葉で話しているのではない。
情報を交換しているのだ。
神は全ての答えを持っている。
全ての答えが返ってくる。
そこに思考というものは存在しない。
全てがあるのだ。
壱与は回路を繋ぐ。
壱与の意識の中に映像が浮かぶ。
巨大な渦巻く闇が暴れている。
『面白いことが起こっておるな…』
『北の大地で…』
壱与は飛んだ。
蝦夷の地まで。
『取り込まれる、気をつけよ!』
「はい」
壱与は空の上から見ている。
「やっぱりいた!」
真魚がいた。
嵐がいた。
壱与はその想いを見つけた。

続く…