嵐は村まで飛ぶと真魚の側に降りた。
紫音が背中から飛び降りた。
そこには悲しみで溢れた紫音はいない。
「今度はどこまでいったのだ…」
真魚が呆れていた。
「都よ、都を見てきたの!」
紫音の感動の声だ。
「それでどうだったのだ…」
「真魚、この人達…誰?」
真魚の問いかけよりも後ろの二人が気になった。

「前鬼と後鬼だ、一緒に旅をしている」
「赤鬼が前鬼、青鬼が後鬼だ」
真魚が二人を紹介する。
「鬼?って何?人のようだけど…」
肌の色はともかく見かけが人間である。
紫音がそう思うのも無理はない。
「でも、人じゃない…」
紫音は既に感じている。
二人から出ている波動は人のものではない。
「そうだ、わしらは人ではない」
前鬼が言った。
「縁あって真魚殿と旅をしておる」
後鬼が言った。
「紫音とやら、案ずるな…皆がいる」
紫音の不安が前鬼には分かる。
「心配ない、この子は信じている」
後鬼の言葉は紫音の心を勇気づける。
「私、もう迷わない!」
紫音が言った。
紫音が生み出す波動が広がっていく。
「ほう」
真魚が驚いた。
「嵐、旅の成果がでたようだな…」
真魚が嵐をからかった。
「お主、そんなにお節介だったか?」
前鬼が更に追い打ちをかける。
「かわいい娘には甘いからなぁ」
後鬼がとどめをさす。
「うるさいわ!」
嵐は言い返す言葉がない。
紫音はそれを見て笑っている。
「真魚、聞きたい事があるの!」
紫音の苦しげな表情が真剣さを伝えている。
紫音が気になっていた言葉。
「蝦夷に未来はあるの?」
母礼が言った言葉だ。
「それを選ぶのは自分自身だ!」
真魚が言った。
「どういうことなの?」
紫音は、真魚の言葉の答えを探した。
「蝦夷はどこでも生きられる…」
真魚が言った。
「どこでも…」
紫音は思い出した。
嵐が見せてくれた大地。
それは遙か彼方まで続いていた。
「どこかに…」
紫音はもう描いていた。
蝦夷の未来を…。
「私たちは生きていける…」
そこに蝦夷の未来が確かにあった。
「戦は止められないの?」
紫音にはそれが理解出来ない。
「あの男がそれを許さない!」
真魚が言った。
「あの男…」
「帝のことだ」
嵐が助け船を出した。
「直ぐに決着がつく」
真魚が紫音に言う。
「どうして分かるの?」
「俺が見ているからだ」
真魚のその答えは更に紫音を悩ませた。
「みんな助かるの?」
「約束はできぬ…だが…」
紫音が真魚を見ている。
「紫音が畏れている事は、まだ何も起きていない!」
真魚のその言葉に紫音の心が振動した。
波動が伝わってくる。
「私、信じてる!」
紫音はその想いを抱きしめている。
真魚に全てを委ねている。
「あなたはそのために来たのね!」
真魚は紫音のその想いを受け止めた。

続く…