空の宇珠 海の渦 第五話 その三十八 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話




嵐は村まで飛ぶと真魚の側に降りた。
 
紫音が背中から飛び降りた。
 
そこには悲しみで溢れた紫音はいない。
 

「今度はどこまでいったのだ…」
 
真魚が呆れていた。
 

「都よ、都を見てきたの!」
 
紫音の感動の声だ。
 

「それでどうだったのだ…」
 
「真魚、この人達…誰?」
 
真魚の問いかけよりも後ろの二人が気になった。
 


5_siontooni_530.jpg




「前鬼と後鬼だ、一緒に旅をしている」
 
「赤鬼が前鬼、青鬼が後鬼だ」
 
真魚が二人を紹介する。


「鬼?って何?人のようだけど…」
 
肌の色はともかく見かけが人間である。
 
紫音がそう思うのも無理はない。
 

「でも、人じゃない…」
 
紫音は既に感じている。
 
二人から出ている波動は人のものではない。 


「そうだ、わしらは人ではない」
 
前鬼が言った。
 

「縁あって真魚殿と旅をしておる」
 
後鬼が言った。
 

「紫音とやら、案ずるな…皆がいる」
 
紫音の不安が前鬼には分かる。
 

「心配ない、この子は信じている」
 
後鬼の言葉は紫音の心を勇気づける。
 

「私、もう迷わない!」
 
紫音が言った。
 

紫音が生み出す波動が広がっていく。
 

「ほう」
 
真魚が驚いた。
 

「嵐、旅の成果がでたようだな…」
 
真魚が嵐をからかった。 
 

「お主、そんなにお節介だったか?」
 
前鬼が更に追い打ちをかける。 


「かわいい娘には甘いからなぁ」
 
後鬼がとどめをさす。
 

「うるさいわ!」
 
嵐は言い返す言葉がない。
 

紫音はそれを見て笑っている。
 

「真魚、聞きたい事があるの!」
 
紫音の苦しげな表情が真剣さを伝えている。
 

紫音が気になっていた言葉。
 
「蝦夷に未来はあるの?」
 

母礼が言った言葉だ。
 

「それを選ぶのは自分自身だ!」
 

真魚が言った。
 
「どういうことなの?」
 

紫音は、真魚の言葉の答えを探した。


「蝦夷はどこでも生きられる…」
 
真魚が言った。
 

「どこでも…」
 

紫音は思い出した。
 

嵐が見せてくれた大地。
 

それは遙か彼方まで続いていた。
 

「どこかに…」
 

紫音はもう描いていた。
 

蝦夷の未来を…。
 

「私たちは生きていける…」
 
そこに蝦夷の未来が確かにあった。
 

「戦は止められないの?」
 
紫音にはそれが理解出来ない。
 

「あの男がそれを許さない!」
 
真魚が言った。
 

「あの男…」


「帝のことだ」

嵐が助け船を出した。
 

「直ぐに決着がつく」
 
真魚が紫音に言う。 
 

「どうして分かるの?」
 
「俺が見ているからだ」
 
真魚のその答えは更に紫音を悩ませた。
 

「みんな助かるの?」
 

「約束はできぬ…だが…」
 
紫音が真魚を見ている。
 

「紫音が畏れている事は、まだ何も起きていない!」
 

真魚のその言葉に紫音の心が振動した。
 
波動が伝わってくる。
 

「私、信じてる!」
 

紫音はその想いを抱きしめている。
 

真魚に全てを委ねている。
 

「あなたはそのために来たのね!」
 

真魚は紫音のその想いを受け止めた。
 


5_mao_sion_530.jpg




続く…