空の宇珠 海の渦 第五話 その十九 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話




真魚は夢を見ていた。
 
「情けない奴め…」
 
その声は美しい。
 
「俺も、まだまだだ…」
 
真魚がつぶやいた。
 
女の神が側にいる。
 
丹生津姫であった。


 
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「お主の力が強くなるほど、引き寄せるものも強くなる」

「やはり、そういうことなのか…」
 
真魚は既に感じてはいた。
 

「元に戻ろうとする力はこの宇宙の理だ」
 
「光はいずれ闇に還る」

「そして闇はその自らの力で消滅する」
 
丹生津姫は真魚の頭をを座った膝の上に乗せていた。
 

「いずれこの宇宙も無に還ると言うことか…」
 
真魚はそう捉えた。
 

「無に還るのか、生まれ変わるのかはわからん」
 
「破壊は再生の始まりだ」
 
姫は真魚の頬を撫でた。
 

「お主に言っておかねばならないことがある」
 
「何だ」
 
「分かっていると思うが、人の生死にかかわってはならぬ」
 
「分かっている」
 
「理を乱せばそのしわ寄せが必ず来る」  

「お主を助けた私が言うことではないがな」
 
姫は一度真魚の命を救った。
 

「お互い様だ」
 
真魚は笑っていた。

「気をつけるのだ」
 
姫は真魚を見て微笑んでいた。





 
「ねえ、嵐!」
 
紫音が嵐に話しかける。
 
嵐の横で真魚はぐっすり眠っている。
 

「那魏留が宴の用意をしてくれているの」
 
「う、宴!く、食い物か!」

 嵐の心が躍る。
 

「真魚を起こすとまずいかな?」
 
紫音がそう言いながら真魚の様子をうかがっていた。
 

夕刻が近づいている。
 

今からだと村には帰れない。
 

馬も逃げていない。
 

「食い物があるなら俺は文句はない!」
 
嵐はそう言うと真魚の側から立ち上がった。
 

「真魚は?」
 
紫音は真魚が心配であった。
 

「真魚は大丈夫だ、それに今は…」
 
嵐はそこまで言いかけて止めた。
 

「今は…何?」
 
紫音は訳が分からない。
 

「そっとしておいた方がいいと言うことだ!」
 
我ながらうまくごまかしたと嵐は思っていた。
 
「真魚をそのままにしておくの?」
 
紫音は嵐に確認する。
 

「俺がどうしたって…」
 
真魚は既に目覚めていた。


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「良かった!これから那魏留の家へ行かないと…」
 
「飯だぞ真魚!」
 
紫音の話が終わる前に嵐が言った。
 

「お前の顔を見ればわかる」
 
真魚はそう言い切った。
 

「今夜はここでお世話になりましょう」
 
「そうか、もう日が暮れるのだな」
 
紫音の言葉で真魚は夕刻であることに気がついた。
 

「行くか!」
 
「飯だ!飯だ~!」
 
嵐はご機嫌であった。


続く…