
自然が溢れている。
生命が輝いている
小高い丘の上に立っていた。
山、川、海、空から眺めると全てが揃っていた。
豊かさというのはこういう事なのかと感心していた。
生命の波動が心地良かった。
全ての命は繋がっている。
人が口にするもの全ては命だ。
人はその物質としての栄養を身体に取り入れ、生命を受け継ぐのである。
残念ながら身体はそうすることでしか維持できない。
人が生きようとするとき、別の命が消えていくのである。
それは人が抱えた闇でもあった。
「ここは楽園だな」
真魚が言った。
「食い物もたくさんありそうだな」
子犬に戻った嵐が言った。
感じているものが同じでも二人の口から出てくる言葉は違った。
「お前という奴は…」
真魚は嵐の言葉に呆れるしかなかった。
真魚と嵐は河原を歩いていた。
川の流れが音を奏でている。
更に森の緑と川面の輝きが彩りを添えている。
それだけで、十分であった。
大地の教えは真魚が今まで感じた事がないものであった。
「なあ、真魚よ」
「俺は思うのだが、こんな所に悪い奴はいないぞ」
嵐が真魚に言った。
「良い、悪いなどこの世に存在しない」
真魚はそう思っている。
「悪くもないのに戦をするのか?」
嵐は納得がいかない。
「理由は他にもある」
「守るとき、畏れるとき…、理由は幾つかある」
真魚にしては丁寧に答えている。
「それも、そうだな」
嵐は考え込んだ。
「あの男は一体何を考えているのだ」
嵐は頭が燃えそうだ。
「権力などに興味がないからな、お前は…」
「そのうちにわかる」
そう言うと真魚は後ろを振り返った。
「おーい」
声がした。
聞き慣れた声が遠くから聞こえてくる。
「なんじゃぁ、結局わしらの方が遅かったのか!」
前鬼であった。
「一生懸命に跳んで来たのになぁ」
後鬼である。
「すまない、思ったより早くここが分かったのでな」
真魚は素直に詫びた。
「奴らの目的が分かったのですな。」
前鬼が真剣になった。
「そういうお主らもここまで来ておるではないか?」
嵐がそう言った。
「真魚殿からの連絡があったからな」
後鬼は嵐に言った。
「式を使ってか?」
嵐がわかっておるわと言いたげである。
「三輪で使った鈴じゃよ」
後鬼が答える。
「ほう、分かったところで俺には無用じゃ」
そう言いかけたところであった。
「何か来るな」
真魚が言った。
全員、森の奥から響く音に気がついた。
「馬か…」
前鬼が言う。
しばらくすると馬の姿が見えた。
人が乗っている。
十人ほどいるが、どう見ても優しい男達には見えない。
黒い布で口元を隠している。
服装も暗い色で統一されていた。
それぞれに武器を持っている。
「命が欲しければ荷物を置いていけ!」
そのうちの一人がそう言った。

その時,既に真魚の手には棒が握られていた。
「お前達の事などどうでもいい」
真魚は笑いながらそう答えた。
「何を!」
その男は声を荒げたが、真魚の本当の言葉の意味を理解していなかった。
続く…