「とりあえず行くしかないか」
そう言って真魚は寺に向かった。
「この先に何があるのじゃ?」
嵐が聞いてきた。
「寺だ」
「この前そこで女に逢った」
真魚はそう答えた。
しばらく歩くと寺の前についた。

「ここか、思ったより大きな寺じゃな」
嵐が寺を見通して言った。
寺の中には祠もあった。
神と仏が祀られている。
現在では神仏分離がされている。
この時代は神仏習合が当たり前だった。
仏は理であり、神は存在である。
そもそも分ける必要などない。
この宇宙にはあるべきものなのだ。
境内に入った。
「やはりな」
女がいた。
真魚の考えは当たっていた。
「あれか」
嵐が見た。
「似ている、波動までもがそっくりじゃ」
嵐が真魚にそういった。
「これでもう迷いはない」
真魚が確信した。
女が真魚達に気がついた。
それとなく真魚達も近づいて行く。
嵐はただの子犬を演じている。
「あら、この子犬」
女は嵐に興味があるようだ。
「嵐といいます」
真魚が女に伝えた。
「元気ね」
女はそう言った。
その言葉の意味を真魚は探った。
「少し体調を崩してたんですが、久しぶりに…」
真魚は「体調」という言葉で嵐の具合を伝えた。
「あ、そうなんですか」
女は嵐を見つめた。
嵐に悪寒が走る。
あの男に似ていた。
「もう大丈夫なようですね」
女はそう言った。
「ええ」
真魚が言葉を返した。
「光月に逢いましたか?」
女が真魚に向き合う。
そして、真魚の目を見つめる。
「美しいな」
真魚は言った。
「えっ」
女は頬を赤らめた。
「一つ聞いても良いか?」
真魚が女に言う。
「何なりと…」
女は真魚に心を開いていた。
「葛城には何をしに行ったのだ」
真魚は葛城の地が気になっていた。
「母の出身が葛城なのです」
女はそう答えた。
「葛城氏の…」
真魚は考え込んだ。
「小さい頃は葛城で育ったのです」
女はどこか哀しげであった。
「淋しかったのだな」
真魚はそれだけ言った。
「ええ、淋しかった…の」
女の目から涙が溢れた。
真魚の言葉に包まれた。
真魚の言葉が嬉しかった。
感情の堰が切れた。
止めることが出来なかった。
真魚にしがみついて泣いた。
嵐は何が起こっているのかさっぱり分からなかった。
女の悲しみは深かった。
止めどなく流れる涙がそれを語っていた。
女の嗚咽はしばらく続いた。
嵐は周りを気にしてきょろきょろしていた。
しばらくすると女が顔を上げた。

「気が済んだか」
真魚が言った。
「楽になりました」
「あなたは思っていた通りの人でした」
女はそう言った。
真魚は微笑んでいた。
だが、嵐の疑問が解消されることはなかった。
続く…