普段は仲良く、のんびりと過ごしているのに・・・。
折に触れてケンカをしてしまう。
一、二週間に一度くらいの頻度?
持続期間は長くて一日、だけど。
いつも、怒りを爆発させるのは私だ。
とは言え、怒鳴り出すとか泣き出すとか、そういう発散型ではなく、彼を避けてしまうのが私のいつものケンカ。
話したくなくなり、顔を合わせるのが辛くなり、同じ場所に居るのも嫌になる感覚・・・。
海さんが、そんな私の状態に気付き、色々とお互いの感情を行き違い、すったもんださせた挙句に話し合いの場を作って、二人で話し合う。
それが私と海さんの、いつものケンカの勃発から収束までの過程だ。
基本的に、海さんから怒り出す事はない。
何故なら・・・ケンカの原因は、形は違えどいつだって海さんの浮気の事なのだから。
忘れられない――それが、現在の私の状態。
いつも胸の中に、負の感情をくすぶらせている。
忘れたくって、無くしてしまいたくって、いつもはそれを隠している・・・ううん、楽しい時間を過ごしている間は、半分以上忘れ掛けているのだ。
だから負の感情が頭をもたげる事はない。
だけど、ちょっとした切っ掛けで、普段は眠っているその感情が目覚めてしまう。
その切っ掛けは、浮気に繋がる幾つもの事象。
小さいものから直接的なものまで、全てが起爆剤になる。
ケンカをした。
あんなに楽しかったTDLへの旅行の後だったのに。
切っ掛けは、海さんがTDLで買ったお土産を、仲間内に届けようとした事から。
厳密に言うとお土産だけではない。
お土産は理由の一つで、大きな理由は海さんが彼ら――親友として仲良く付き合っている仲間達に、久し振りに会いたいと思っていたから。
私と暮らし始める前は、仲間達とは週に一度は集まって遊んでいたのだと言う。
男ばかりの集まりで(中には既婚者や彼女持ち、または仲間から夫婦になった、ってメンバーもいる)、高校や大学時代からの古い付き合いの面々で、海さんは彼らの事をとても大切にしていた。
だけど、私と暮らし始めるようになってから、海さんは彼らと一度しか会ってない。
今までは週イチで会っていたのが、一ヶ月に一度会えるかどうかなのだから・・・格段に付き合いが減ったと言える。
私だって、別に彼らの友情を引き裂きたい訳じゃない。
でも・・・会って欲しくない。
それには理由があって、また追々詳しく触れたいと思うのだが・・・実は海さんの仲間連中の内、特に親しく付き合っている二人の男性が、花さん側の人間・・・だからなのだ。
この二人は一連の浮気に関する事をほぼ把握している。
花さんとはリアルの付き合いもあったし(ネトゲ関連で親しかった。家も行き来出来る範囲)、私とも知り合いだったし、発覚後に海さんは仲間内でもその二人には、何が起こったのかを話したのだ。
一人は、浮気発覚の直後から、親身になって彼女を気遣ったり世話を焼いてきた、保護者的役割の人。名前は仮に山さんとしておく。
もう一人は・・・・花さんの、現在の恋人。
此方も仮に、高原さんと呼んでおこう。
私は、山さんが大っ嫌いだ。はっきり言って。
一度は私の前から去り掛けていた花さんが戻ってきたのは、半分はこの人のせいだから。
他にも当時、色々と無神経な事を言われたりされたりしているから、はっきり言って信用出来ない人間だと思っている。
恨んでいる、と言ってさえいいだろう。
一方の高原さんは、浮気発覚後のゴタゴタが一段落した後、花さんに告白して恋人同士になった・・・と言う人。
何でも、浮気が発覚するずっと以前から、花さんに想いを寄せていたそうだ。
(ちなみに海さんは高原さんのこの想いを知っていて、花さんと浮気を続けていた。
これも何度も責めているが、本当に情けない事だと思っている・・・。海さんは、高原さんの性格に助けられてるんだろうな・・・。)
こんな経緯を持つ高原さんだが、実は私は嫌ってはいない。
高原さんは・・・いい人、なのだ。・・・こう言うと彼は嫌がるのだけれど。
でも、とてもいい人なんだ。
自分の気持ちよりも、周りの人を優先するタイプ。落ち着いていて穏やかで、ちょっとやそっとの事では怒らない。
高原さんとは発覚後、何度もメッセを介して話したのだが、それが彼の穏やかさや誠実さを私も知れる事となった。
高原さんは自分が花さんと付き合う事になってから、何度も私に謝ってくれた。
自分が彼女と付き合う事で空さんには嫌な思いをさせていると思う、ごめんなさい・・・って。
山さんは私の気持ちなんて全然解かってないし解かろうともしないけど、高原さんは解かってくれている。
だから、花さんの彼氏とは言え、高原さんの事は人間として信頼しているし、好感も持っている。
でも、やっぱり・・・・。
そうやって花さんに繋がりのある人のいる場所には、行って欲しくないと思ってしまう。
・・・大嫌いな山さんもいるし。
現時点で海さんが花さんと会う事は、決してないだろう。
その仲間の集まりに出掛けたとしても。
海さんも会おうとはしないだろうし、高原さんの方でも万が一会ってしまう事はないように心配りするだろう。
それでも、なのだ。
それでも・・・やっぱり私は、海さんが彼らと接触する事を嫌だと感じ、それを海さんに押し付ける。
実は一緒に暮らし始めて、この件でケンカをしたのは今回だけではない。
以前にも、集まりに顔を出したい旨を海さんが口にして、それでケンカになってしまった事がある。
海さんは私の気持ちが落ち着くまでは集まりには顔を出さないと言ってくれるし、極力私と一緒に居てくれようとしている。
でも、仲間に会いたい・・・遊びたい、と言う気持ちもまた、海さんの本心なのである。
昨日は、仲間内の集まりがある日だった。
仲間用にTDLで買ってきたお土産を、渡したいなぁ・・・ついでに久し振りに皆の顔も見たいし。
そんな事を呟いていた海さんに、いつも反対するはずの私は珍しく、「行ってきてもいいよ」と応えた。
・・・本当の感情としては、行って欲しくない半分。
往復の道のりを入れて約一時間ほどの、仲間達との久々の集まり。
(行って少し話したらすぐに戻ってくるから、と言う事での一時間。いつもの集まりなら3、4時間は一緒に過ごす。)
行きたい・・・けど、私がまた怒るんじゃないかと思って躊躇する海さん。
私は、その海さんの行きたい気持ちの後を押した。
で、結局・・・夕食を食べ終えた11時前に(この日は昼食が遅かったので、夕食も時間ずれ込み・・・)、海さんは車を出して仲間達の元に向かった。
行っていいよ?
そう言いながら、本当は私、行って欲しくなかったんだ・・・。
それでもそこで、私を選んで欲しかったんだ。
仲間内に顔を出すと私が傷付く事を知っている海さんだから、仲間に会う事よりも私を思って、行かない事を選んで欲しかったんだ・・・・。
「行っちゃだめ」とちゃんと言わなかったのは、私の狡さ。
だけど・・・深夜、私をアパートの部屋に一人残して楽しそうに出掛けていく海さんの姿に、私は・・・・。