私は良い香りのするハンドソープが好きだ。

ちょっとお高めの、遠くの雑貨屋さんの奥に売ってるような。



だが一人でそんなお店に、

今の身体では行くのが不可能なので、

夫と出かけたついでを装い、

なんとか雑貨屋さんに行こうとする。



が、いいよと言う夫の目から、

生気がみるみる無くなって行くので、

中々連れて行ってくれとは言えない。



先日遠くに買い物に出かけた時、

ちょうど通り道に良い香りのハンドソープコーナーが出来ていた。



私は嬉しくて思わず飛びついた。




ちょっとゆっくり選んでいい?



そう言われた夫は、



あのさあ、それって何に使うの?



と死んだ目で聞いて来た。



洗面台には泡ハンドソープが置いてあり、

良い香りのものは確かに必要はない。

が、たまには使いたい。

良い香りが好きなのだ。

手を洗うたびにテンションが少し上がる。



うーん、ホラ、食器洗った後とかに、

良い香りでリフレッシュしたいから欲しいんよね。



私がそう言うと、




あのさあ、俺、いい物知ってるんだ。



そう言って、ハンドソープコーナーの前で、

15分も、食器洗いが楽になる、

魔法の手袋の話をする夫。



でさあ、ほんっとに違和感なくて〜

ご飯粒も手で分かるし〜

でも手は気持ち悪くなくて〜



と、ずっと説明する夫。



それってどこにあるの?

と聞くと、

大きな業務用スーパーのどこかに多分あると言う。



どこかに多分あるって。。。




あーうん、そうだね、今度それ見に行こう。




そう言って、私は良い香りのハンドソープを買うのをやめた。



俺のイチオシの手袋をみかんが欲しいと言ってくれた!

と、夫のおでこに書いてあったからだ。



結局夫のモノだけ買って帰宅した。



手袋の説明をする夫の笑顔は、

無邪気な少年が初めてアイスキャンディを食べた時のような笑顔だった。

いや見た事ないけども。



そんな手袋いらんねん、

そう言ったらまた酷く悲しい顔をするだろう。



夫はいつだってそんな人で、

ニコニコしているならもうそれで良いのだった。








結局幻の手袋には未だ出会えていない。