私の娘は大学卒業と共に家出をした。

そんな娘の話。



先日息子がポロっと言った。



娘が家出をして数ヶ月後、

皆がとても苦しい気持ちで心配していた頃だ。

息子は娘と共通の知人にバッタリ会ったそうだ。



娘は趣味で創作活動をしていたのだが、

家出後も就職をドタキャンし、

(大変な迷惑をかけ平謝りした)


親に買って貰った車も売っ払い、

お金も持ち逃げし、挙句行方をくらましたのに、

しれっとずっと当時のTwitterで、

創作活動を続けていたようだ。

私が買ったパソコンで、私が買った携帯で。

自力で稼いでから好きな事をしろとウンザリした。



共通の知人が、

娘のTwitterをフォローしていたようで、

何も知らない知人が、息子にスマホを差し出して、

お姉さんのTwitterフォローしてるけど見る?

創作活動続けてすごいね、と言って来たそうだ。




息子は、




いいです、姉に興味が1ミリもないので




と言って断ったらしい。

その人に聞けば今もXやってそうだし、

今何してるか分かるかもしれないけどどうする?



と、今になって聞いて来る息子。



あーもうイイイイ、家出して金盗んで、

母親にストーカーの容疑までかけておいて、

創作活動ってナメてるの?

もういいよ。



と私は言った。



息子は今年から就活が始まる。

自分の姉が専業主婦になると言って、

家でゴロゴロしていたのを信じられないと言う。



お母さんは大学の事知らないから仕方ないけど、

普通の大学生は就活でやらないといけない事が沢山あるの。



そりゃあ働きもせず家事もせず全力で嫁になるって言うヤツ恋人も結婚延期するよね。

僕なら別れるもん。

恋人のお母さんもそりゃ反対するでしょ。



あの大変な時期に就職もドタキャンして、

創作活動してたんだよ?

絶対にもし戻って来ても家に入れない。

僕にはもう姉なんていらないんだよ。



と息子は言った。



息子はいつも娘の情報を後出しで言う。

私は一瞬えっと思い、

何故当時に言わないのかと思い、

それが息子の私を守る思いやりだと気づき、

何とも言えない気持ちになる。



当時の私ならあの状況下で創作活動のTwitterを見ていたら、怒りで血圧が跳ね上がって、

倒れていたかもしれない。



今だからもうどうでも良いと言えるが、

当時なら大変だったと思う。



娘も、先日失った友人と同じく、

私達親には何をしても許されると思っているのだろう。そしてそれは間違ってはいない。

が、許さない者もいる。息子だ。



親子と姉弟では位置付けが違う。

息子は人を許さず必ず復讐するタイプだ。

その粘着質は誰に似たのか不思議に思う。




私は正直、娘はニートになるとずっと思っていた。

それは娘を産んだ私が思うのだから、

確たる何かがあったのだった。



恋人と婚約したと聞いた時は、

心底ホッとした。

返品不可と思った。

しかし世の中そうは甘くなかった。



息子はずっと体が弱く、

勉強もさっぱりで、中学生になっても、

カタカナもろくに書けなかった。

部活が好きだったので学校には朝練をすると、

早朝から張り切って通っていたが、

まともな高校には行けないと思っていた。



近所中から娘の勉強を褒められたり持ち上げられたり羨ましがられたりしたが、

私は分かっていた。出来るのは勉強だけだと。



息子の事は誰も誉めなかった。

喘息で真っ白の顔を見て、

もやしみたいな子と言われた。



でも優しい子だったので、

勉強は出来なくても、

家さえあれば過疎地で質素に暮らせるだろうと思っていた。



大人になった今、娘は多分恋人のスネをかじりながら、結婚を夢見て創作活動を続けていそうだし、息子は相変わらず汚部屋の住人だが、

就活の為の準備を進めている。



この先どうなるかなど分からない。


ただ過疎地の良いところは、

比べる人も差別する人も、

ほとんどいない所だ。


いつだって山が微笑み、風が吹いている。


娘の事も、噂になっているかもしれないが、

近所の皆が、娘に家を出て行かれていたり、

就職したがやめて引き込もっていたり、

不登校だったりと、色々とある。



都会のマンション一棟より人がいない過疎地では、よそ様の家を笑えるほど立派な家などほとんどない。



雪は多く暮らしは厳しい。



公園に子供はおらず、

産婦人科はお産を受け付けていない。

小児科はガラガラで、内科や外科にお年寄りが沢山いる。



そんな場所だ。



若者にはつまらない場所だろうが、

病気の療養には良いかもしれない。

杖で歩いていても、誰にも遭わないし、

山はいつだって見守ってくれている。



今日は息子の部屋の汚い布団を、

二人がかりでコインランドリーに持って行く約束をしている。



晴れてくれて良かった。

雨だと大変だっただろう。




娘が子供を連れて戻って来たらお母さんどうすると息子に昨日聞かれた。



義母に引き取らせると言ったが、

そんな事になれば、皆大喜びするだろう。

で、子守を押し付けてまた好き勝手をして出て行く。



もしその時が本当に来たら、

あんたに任すわと息子に言った。



何でもいいさ、なんとかなる。



そう思ってさっさと寝たのだった。