息子は今二十歳だが、
思春期の頃は私をずっと無視し続けた。
クソババアは言わなかった。
そう言う事を言うのはカッコ悪くて頭が悪いと皆が思っていて息子もそうだったらしい。
いい流行りがあって良かったと思う。
しかし母親の事はウザくてたまらない。
中学二年生から大学を合格するまで、
五年ほど、存在を消されて生きてきた。
以前もどこかで書いたと思うが、
同じ空間で息を吸うのも嫌らしく、
どうしても言いたいことがあると言うので、
どうしたのと聞いたら、あなたが死ぬほど嫌いですと言われた。
私はなんだそんな事かと大笑いして、
お母さんがおまえを好きだから、
おまえはあたしを嫌いでいいんだよと言った。
万引きでもしたのかと思ったジャンびっくりさせるなよと。
息子はその返答にとても怒り、
なんか違うと言って壁を殴った。
バイーンとなって、息子は手首を痛めた。
壁にパンチで穴も開けられないほどヒョロヒョロなんだから、手首折る前に壁を殴るのはやめなさい。
腹が立ったらベッドのマットレスを殴れよ。
それなら出るのは埃だけだからと言った。
息子はうううううと言って部屋に戻った。
そこからずっと無視された。
私は息子に嫌われたと思った。
男の子だし、いずれは家を出るのだろうし、
寂しいけど仕方がないと思った。
これも前に書いたと思うが、
ある日息子が病気で寝たきりの私に向かって、
専業主婦なら家事を完璧にしろと言い出した。
何故かと聞くと、専業主婦だからと言う。
だから何故専業主婦なら家事を完璧にしないといけないのか説明しろと言うと、
なんでって専業主婦なんだから当然だろと言う。
お母さんはまず専業主婦じゃなくて、
ただベッドに横たわる病人だ。
病人は大抵ベッドで寝ている。
だからお母さんは専業主婦じゃない。
それに専業主婦だったとしても、
完璧な家事などしない。
何故ならおまえに養われていないからだ。
おまえは一円も稼いでなく、
父親の働いた給料で毎日飯を食っている。
おまえに専業主婦だから家事をしろと言われる筋合いなどない。
そもそもお父さんがお母さんを養っているから、
お母さんはおまえの専業主婦ではない。
ついでに聞くがおまえは完璧な中学生なのか、
人に完璧を望むならおまえも完璧な中学生になれるのか。
明日からテストは全て100点で、
友達全員に慕われて、部活では部長になって皆を引っ張るリーダー的存在になるんだな?
そう言った。
息子は怒りだして、
そんなの無理に決まってるじゃん!!
理不尽だよ!酷いよ!!
毎回100点なんて無理に決まってるじゃん!!
お母さんは酷いよ!!
と言った。
そうだろう、酷いだろう、
お母さんは一度もおまえに完璧な中学生やら完璧な息子やら望んだ事があったか?
完璧な専業主婦を求めたのはおまえだろう?
そんな生き物存在しないんだよ。
何故なら完璧な人間なんていないんだから。
お母さん今ベッドでほとんど寝たきりだろ?
何にも出来ねえ。
中学生の息子にご飯炊いてくれって頼まないと、
生活出来ないくらい病気がひどいんだよ。
本当にごめんな、でも起き上がれないんだよ。
お母さんが嫌いでいいから、
おまえはお母さんの事なんか考えないで、
おまえの思うように生きればいいんだよ。
な、テスト大変なんだろ、はよ宿題しい。
そう言ったら息子は泣いて部屋に戻った。
ずっと無視は続いたが、
完璧は求めなくなった。
今では杖の母親の荷物を運び、
私が車に轢かれそうになるのを、
襟首を掴んで止める男になった。
息子の思春期のほとんどを病気で過ごし、
卒業式も出られなかった。
息子の色んなものを見に行く事ができず、
大学の合格発表の日はめまいで一日中寝込んだ。
私の子育てが正しいどうか知らないし、
娘には縁を切られている。
お母さんが怖すぎると言って、
子供達はお母さんは普通じゃないといつも言っていた。
息子には他人に危害加える人間になったら、いつでも◯して一緒に◯ぬと言っていた。
本気だった。
酷い事件が沢山あった。
動物を殺める子供も多くいた。
とにかく息子を愛していたし、今もそうだ。
でも私は息子の妻ではない。
息子に指図される筋合いなどない。
それってあなたの感想ですよねと一時期流行った。バカな子供が賢しげに使う。
そうだ感想だ。で?と思う。
もしおまえがクソババアと言ったら、
国境なき医師団に送り込むぞといつも言っていた。
行ける訳がないのだが、
息子は国境なき医師団に怯えていた。
それが何かも知らずに。
娘も息子も、高校生の頃、
お母さんて大学出てないんだね、
信じられない、ありえないと言った。
父親が大学を出ていたので、
私だけが家族の中で大卒ではなかった。
は?テメエなめてんのかおいガキ。
じゃあ明日から大卒の母親探して飯もパンツも全部世話してもらえ。
ガキが大卒出てないとダサいって?
おまえの価値観がダセエだろうが。
大学行かないおまえの友達は皆ダセエのか。
そんなおまえが一番ダセエ。
ダセエからもう家事しねえ。
などと言ったように思う。
息子の時は父親にこってり叱ってもらい、
謝りに来たので許してやった。
私は自分のガキにクソだのババアだの言われて、
そいつに飯を作るほどぬるい実家で生きていない。
気に入らなければテメエで生きろと思う。
娘に縁を切られても、仕方がないと思っている。
息子はどうなるか分からないが、
母親を自分より弱い生き物だと理解しているのか、今は優しい。
子育てに正解などなく、
結果は全て親のせいにされる。
私はこんな風に育てたが、
未だに良いのか悪いのか知らない。
ただ子供達からクソババアとは、
一度も言われなかった。
多分言わせなかったが正しいのだろう。
もしクソババアと言われたら、
おう!そのクソババアから生まれたクソガキなんか用か?と返しただろう。
それ以上ふざけた事言うなら寝起きにテメエを縛って地元の漁師の同級生の船に積んで沖まで行かせるけど大丈夫かと言ったと思う。
そして多分実際にやったと思う。
海の女は強くなければやってはいけぬ。
私は漁師の妻だけは無理だと思っていた。
朝が早すぎる。
話がそれたが、子育ては難しい。
みんな手探りだ、正解などない。
あっても出来ないし。
私は息子が今のように優しくなると思っていなかったし、娘に縁を切られるとも思っていなかった。
子育ては本当に難しいが、
幼い我が子は思い出の中でいつも可愛いままだ。
もうあの日には戻れないが、
幸せな思い出を貰ったと思う。
私の人生で孫を抱ける事はないかもしれない。
もう子育ては終わったのだ、
のんびり生きようと思う。