めまい感が少し落ち着いたので、
昼に散歩に出た。
山から吹く二月の風はとても冷たくて、
私は悪寒を覚えてこたつに戻った。
しばらくすると息子がラーメンを食べたいと言い、
ちょうどお昼だし久しぶりにと二人で麺をすすった。
待ち時間に会話をするのが息子は嫌なようで、
私達はお互いスマホを見て、ほとんど話さない。
食べ終わりお店を出て車に乗ると、
またボソボソと話す息子。
外で母親と話すのは格好が悪いのかもしれない。
まあどうでも良いのだが。
帰り道でふと、
お母さんこのまま白髪で行こうか、
美容室に行くかで迷ってるんだけど、
息子的には母親が白髪でも染めてても、
どっちでもいい感じ?
と聞いてみた。
息子はどうでもいいと言うと思っていたのだが、
染めたら?
とボソっと言った。
ああそうかと答えた。
とても辛いが頑張って予約を入れようかと決意する。
夫は白髪で汚い方が良いと言うが、
息子は嫌なようだ。
夫はやはり感覚が常人とは違うように思う。
昨日私はゼリーを買った。
いつもラップをして、数回に分けて食べる。
もう量が多いのだった。
そのゼリーを夫が乱暴に冷蔵庫を開けて、
床に落としてしまった。
少しずつ食べるのが楽しみだった私は、
ええ、落としたのと言った。
ごめんうっかりと言う夫に、
責任とって新しいの買って来てと言ってみた。
もちろん半分冗談で、本気ではない。
夫は極上の笑顔で言った。
責任取って結婚するよ!俺と結婚してくれる?
そう言って、床からぐちゃぐちゃのゼリーを拾いあげて、とても嬉しそうに笑った。
夫なりのジョークなのだろう。
良い話に聞こえるだろう。
ノロケかよと思うだろう。
こんな事は夫にとっては普通の事で、
妻への愛は不変なのだ。
しかしやっぱり言い出した。
カード占いは趣味で一人でやったらと。
最初は良いんじゃないと言っていた。
私が少しずつ準備し出し、
お電話ありがとうございます、カード占いのナントカです。ご予約でしょうか?
などと夫に聞かせたのが失敗だった。
みるみる暗い顔になった夫は、
電話での受付はやめたら?
と言い出した。
メールでいいよ、メールのみ。
やっぱり対面が良くないんじゃない?
メール占いにしたら?
などと、まだカードも持っていないのに、
そんな事を言い出した。
ああまたかと言う気持ちになる。
とにかく夫以外の人間(息子は別)と、
関わって欲しくない夫。
強く出れないので(私に嫌われるから)
ただの愛妻家のように見えなくもないが、
ただのDV予備軍だと内心思っている。
これさえなければ良い夫なのだが、
完璧な人などそうそういない。
私も完璧な家事を求める男性から見れば、
ダメな嫁だろう。
ついでに病気だ。
夫をとやかく言える身分でもない。
気づけばぽっちゃりおばさんなのだが、
夫にとっては誰とも話して欲しくないほど、
素敵な人らしい。
出会ったのが二十歳そこらだ、
脳内補正がかかっているように思う。
夫の私への執着は凄まじく、
その反動で、妻以外の人間に興味がない。
自分の母親が死んでも、
ああそうかと思うだけだと真顔で言う男だ。
娘も恋人にしか興味がないのは、
父親に似たのだろう。
体が辛く、こたつで泣くしか出来ない日でも、
スマホを持てば誰とLINEしてるのと聞いて来る。
何を見てるの、誰に連絡してるの。
今年50歳になる白髪だらけのおばさんに、
夫はモデルにでも話しかけるように、
誰と連絡を取り合っているのか聞いて来る。
しっかりしろ、おまえの嫁はババアだ、
などとも言う訳にもいかず。
これが美魔女なら別に良いのだ。
私は中年太りのただのおばさんで、
そのうちおばあさんになる。
いつまでこんな事を言われるのだろうと、
考えると動悸がするが、
また男がいるのではモードに入られると、
とても大変だ。
養われの病の身の上ゆえ、
大人しく生きようではないか。
そんな事を思って一日が終わる。
カードが届く日が楽しみでならない。