成瀬は天下を取りにいく 「成瀬」シリーズ

 

シャイロックの子供たち - 池井戸潤の傑作ビジネス小説

本作は、ある銀行の支店長が主人公となり、銀行業務の裏側や、顧客との関わりを通して、人間ドラマが展開されていきます。

池井戸潤氏は、これまでにも「下町ロケット」や「半沢直樹」など、ビジネスの世界を舞台にした小説を多数発表し、大ヒットを記録してきました。今回の新作でも、銀行員の苦悩や葛藤、そして成長の物語が、リアルかつ丁寧に描かれています。

Kindle版なら、スマホやタブレットでいつでもどこでも気軽に読むことができます。通勤電車の中や休憩時間など、隙間時間を有効活用して、ページをめくっていきたくなる一冊です。

主人公・滝沢branch長の苦悩と奮闘

物語の主人公は、都市銀行の支店長・滝沢雅也。若くして支店長に抜擢されるも、母店の業績不振に頭を悩ませる日々を送っています。預金や融資の獲得に奔走する滝沢でしたが、思うような結果は出ません。

そんな中、滝沢の前に現れたのが、老舗デパートを営む財閥一族の御曹司・御木本龍二でした。莫大な資産を持つ御木本から融資を引き出せれば、支店の業績はV字回復間違いなし。しかし、御木本との交渉は予想外の展開を見せ、滝沢を翻弄していきます。

権力と金力を持つ顧客相手に、一介の銀行員が奮闘する姿は、スリリングでありながらも、どこか親近感が湧きます。与えられた環境の中で、知恵と工夫を凝らして困難に立ち向かう滝沢の姿に、読者は自身を重ね合わせずにはいられないでしょう。

顧客との信頼関係の大切さ

物語が進むにつれ、滝沢は顧客との信頼関係の重要性を思い知ることになります。単に儲けのためだけに顧客に迎合するのではなく、時には厳しい意見もぶつけながら、真摯に向き合う。そうした姿勢こそが、長い目で見れば顧客との強い絆につながっていくのです。

ビジネスの基本は「顧客第一主義」と言われますが、それは表面的な接客や営業トークだけでは実現できません。相手の立場に立って考え、本当の意味で相手の役に立とうとする。池井戸氏は、そんな当たり前のようで難しい「真の顧客志向」の大切さを、滝沢の奮闘を通して説いているのかもしれません。

ビジネスパーソンなら、ぜひ参考にしたい考え方だと思います。顧客との向き合い方を見つめ直すきっかけにもなるはずです。

組織の中で生きるということ

銀行員である以上、滝沢の行動は組織の方針に縛られざるを得ません。時には、自身の信念と組織の論理が対立することもあります。しかし、そうしたジレンマを抱えながらも、滝沢は自分なりの答えを見出そうと努力を重ねます。

組織の一員でありながら、自分の良心に恥じない行動を取る。それは、サラリーマンにとって永遠の課題と言えるかもしれません。その難しさを痛感しつつも、決して諦めずに模索を続ける滝沢の姿は、多くのビジネスパーソンの共感を呼ぶことでしょう。

池井戸氏の筆力が冴え渡る、組織人の苦悩と成長の物語。ページをめくる手が止まらなくなること請け合いです。

池井戸潤ワールドの面白さ

池井戸作品の魅力は、ビジネスの世界を舞台にしながら、そこに生きる「人間」を丁寧に描き出す点にあります。numbers至上主義のような冷たい物語ではなく、悩み、迷いながらも前に進もうとする登場人物たちの姿が、読者の心を温かくさせてくれるのです。

また、池井戸氏は銀行の業務や商慣行など、一般にはなじみの薄い世界の裏側を、分かりやすく、リアルに描写することにも定評があります。本作でも、銀行特有の仕事のやり方や人間関係が、臨場感たっぷりに描かれています。普段は目にすることのない世界を覗き見る面白さも、池井戸作品の大きな魅力だと言えるでしょう。

ビジネス小説としてだけでなく、人間ドラマ、サスペンスとしても楽しめる本作。これまでの池井戸作品のファンはもちろん、ビジネス小説初心者にもおすすめしたい一冊です。