二級建築士の資格を取得したことですこし自信をつけ、わたしは建築関係の職場への求職活動を本格的に始めた。
 
いくつかの設計事務所に応募した。
 
ひとつは、大手設計事務所のアルバイト。
正社員登用ありと書いてあったから、面接でその件について聞いたら、登用の予定はありませんと言われ、あからさまにガッカリした顔をしてしまったら、不採用だった。
 
ふたつめは、小さな建築設計事務所のアルバイト。
その事務所の所長がとても熱い思いで仕事をしている方で、すごく興味をもった。
しかし、インターンシップのようなあつかいで、半年間くらいは、ほぼ給料がないに等しかった。
実家通いではあったが、両親から早く一人前の社会人になれといわれている身だったので、そこで働くことに前向きになれなかった。
「あいぽんさんが働けるなら働きにおいで」と言っていただいたけど、辞退した。
 
みっつめは、以前の測量事務所のときと同じで、「一級建築士事務所」であることで勘違いしてしまったが、実際は「設備設計事務所」だった。
その事務所の試験がおもしろくて印象に残っているのだけど、『ドラえもんがほんとうにいたらどの道具がほしいか』という問題だった。笑
あとは、設備図面を渡されて、ダクトに色を塗るように言われたのだけど、当時はぜんぜんわからなかった。
その事務所からも採用の返事をいただいたけど、建築にこだわっていたわたしはそこも辞退した。
 
 

そして、ようやく見つけた就職先が、住宅フランチャイズの工務店だった。

いちおう、正社員での採用だったとおもう。
 
初出勤の日、緊張して出勤すると、営業のおじさんがひとりいるだけだった。
 
わたしの前任の人は、すでに退職していたのだけど、わたしへの引き継ぎのために、何時間かだけ出勤して、仕事を教えてくれた。
 
前任の方は、10年近くその会社に勤めていた人だったようで、社会人新人のわたしには、その方の仕事を引き継ぐのは、とても荷が重かった。
 
営業のおじさんが外出してしまうと、会社にはわたし一人しかいなくなってしまう。
 
住宅展示場が併設されているのだけど、もしお客さんが来たら、接客もしなくてはいけない。
接客のしかたも、説明内容もほぼわからぬまま、一人で待機しているのはとても不安だった。
 
ときどき社長と奥様が会社に来たが、どうも、社長は数ヶ月前に脳出血かなにかで倒れ、半身マヒになったようだった。
社長が病気で倒れてからは、会社の状況が大きく変わってしまったらしい。
そんな状況だったから、前任の女性の方は転職することにしたようだった。
 
『ついに建築の仕事につける!』
と、期待に溢れていたわたしは、一気に出鼻をくじかれたような気分になった。
 
職場の方々は、よい人ばかりだったけれど、日中ひとりぼっちで事務所にいると、どんどん気持ちが滅入ってきた。
 
日に日にモチベーションが下がっていき、わずか一ヶ月でその職場をやめることにした。
 
(次回へつづく)