栗本薫さんのレダ、という小説を数十年ぶりに読んだ。

いやあ、面白かったわ。

 

SF小説になると思う。

でも、そういうのを取っ払っても、主人公の心の動きや周囲の人間模様、題名になってるレダという女性と彼女を軸に展開する人々の行動や諸々の出来事。

ホント、読み応えあった。

 

でも実はこの本、600ページくらいあるの。

しかも上下2段組。

字がちっさい。

昔はこんなボリュームの本を書く作家がいて、それを歓迎する読者がいたってこと。

それも凄い話だよね。

 

まあ、この人は超超大作、グイン・サーガの作者さんだから。

といってもそっちは読んだこと無いの。

だってあまりにも、あまりにもたくさん出てる。

老い先短いワタシには読破する気力体力共にない。

でも、こっちは一応1冊だから。

 

初版は確かに1冊だがこのボリュームだからその後は分冊になってる。

でも、わざわざ図書館の相互貸借を利用したので、1冊のを無理して探してもらう。

枕になりそうなデカいのが届いたけど、読みだしたら止まらない。

 

ワタシの一番好きなのはセント・バーナード犬のファン。

人間の勝手な都合で生み出されて期待した研究成果が出ないからと生きたままディスポーザーにかけられそうになったのを危うく命拾いしたIQ150の天才的な哲学犬。

 

犬としての献身、愛情、すべてを兼ね備えてるのに、それがあまりに人間的すぎるからこれは失敗作って、どういうことだよ。

まあ、そういう事をいう人間はその後も自己保身のためにみすみす人が死ぬのをわかっててそれを誘導し、騒動の結果を目の当たりにして自滅する。

変わらないんだよね、そういうヤツの基本構造は。

 

でも、ファン。

この犬の賢さ、冷静さ、そして勇気と朗らかな茶目っ気と深い愛情。

無惨に殺された時は昔、泣いたっけ。

今は泣かないけど、やっぱり辛かった。

 

この本を読んでて今の日本、まんまだな、と思った。

 

だって、主人公を始め今生きてる人間は200年も前に凍結された精子から生み出されたフラスコベイビーで、毎日2千人ずつ生み出されてるのに、緩やかな人口減少が止まらない。

 

それは、あらゆる快楽や自分がなりたいと思えば反社になっても許される一見ユートピアが実はただの籠の鳥で、何をどうしてもそこから逸脱することは不可能で、結果として活力を失った人類はとうに生殖能力を失っている現実。

 

それを知らせないために宇宙からは鎖国状態で箝口令を敷き、なんとか生殖能力の復活をさせるためにレダという女性を生み出したけど、彼女はやはり子供の産めない体で、お荷物となった彼女をレアケースとして荒野に放置してたんだよね。

 

宇宙は宇宙で同様に少子化に悩んでて、一見大量に子供が生まれてる地球のノウハウをどうにかして知りたがって開国を要求してる、という状況。

どっちも同じなのに。

 

出口も解決策も提示されないまま、醒めない夢を見つつ滅びていく人類。

その架け橋になる筈だったレダという女性を自己保身で見殺しにした上層部。

口封じに躍起になって、彼女によって覚醒したイブという15歳少年まで社会の歯車から弾き出そうとする。

 

無駄なあがきを延々とするのよ。

そういうやりきれなさ、今の日本や世界と何が違うのか。

 

一見平和で幸せ。

でも、見えない鎖が張り巡らされて、自由なんて無い。

それに気づくことさえ許されない。

何も見ず、考えず、ただ従うだけの人々。

与えられた自由って、結局おもちゃ箱の中で遊んでる子供に過ぎないってこと。

自由って本来、もっと厳しい制約がある。

 

とにかく必死で食らいついて、読了したら力が抜けた。

頑張った、ワタシ、と思うほど長かった。

でも読めてよかったよ。

 

多分、来年なら無理だったかもしれない。

今後読めないとしても、本の内容を忘れても、多分そこに込められたメッセージは確実にワタシの中に残る。

 

本があるうちに読めてよかった。

ちなみに1980年代の出版です。

分冊になった文庫ならまだ手に入るかも。

無理にオススメまではしないけど、個人的には読めてよかった1冊。

 

今日も読んで下さり、ありがとうございます。