訳あって私は高校生の頃から父親と仲が悪い。

仲が悪いというより、一方的に父を責める態度を取り続けてきた。

父は優しい人だが、ひとつ社会的に許されない側面があった。そこを私に責められ、傷つくこともあっただろうが、父は私を諫めることはなかった。

 

先日、父が入院したと母から電話があった。

丁度その翌週、実家方面への出張があったので、父が入院する病院に立ち寄ってみた。

腰の圧迫骨折だとのことで、幸いしばらくの後に退院できそうだ。

高齢になり弱っていく父を見たせいか、私はいつになく「早よ良うなってな」と口走っていた。

続けて気の利いたことでも言えたらよかったのだろうが、それ以上は照れくさくて言えなかった。

どうしていいかわからず、私は無言で父の腰をさすっていた。

出張先に行く電車の時間が近くなってきたが、私は手を止めるタイミングを逸していた。

それを察したのか、沈黙が気まずかったのか、父は背中越しに「早よ行きなさい」と言った。

「ほな行くわ」とだけ言って病室を出て行く時、振り返ると父がこちらを向いていた。体をひねって痛いであろうはずなのに、そこには私が長い間見てなかった父の笑顔があった。

 

駅へ向かいながら、父の残り少ない人生に私は何が出来るのだろうと考えた。

「いい人生だった」と思って最期を迎えてもらうことではないか。

目の前には子供の頃と同じ空があったから。