昔は、原子力、大好きでした……こどもの頃に、親が『ガモフ全集』という本を買ってくれた。小学生だったので半分くらいしかわからなかったけれど、ものすごく面白くて、毎日読んだ。相対性理論や量子力学も、この本で知った。すごい世界があるんだなあ……と夢が広がりました。



原子力も……原子の構造、原子核の構造、そして核分裂や核融合……ちょうどその頃、日本でも「原子の灯」がともった。東海村の実験炉。核爆弾はダメだけれど、平和利用はいい……そんな雰囲気が時代に満ちてました。鉄腕アトムが原子力で空を飛んでたのもこの時代……

ということで、原子力はぜんぜんプラスのイメージだったのです。プルトニウムを燃やすと、燃やした以上の燃料ができる……これはもう、夢のような話……もう、人類の未来って、めっちゃ明るいじゃない。日本って、資源ないから絶対原子力だね。ゲンパツいっぱいつくれば日本の未来も安泰だ……

これが、ぐらっとひっくり返ったのは、いつごろだったんでしょうか……調べれば、事故の歴史とか出てくるけど、やっぱりチェルノブイリは大きかった。ゲンパツって爆発するんだ……うわーこわいこわい!オソロシイ……しかも死の灰でみんな死んでしまう……オソロシイ……

まあ、そのころ、電力会社の札束で顔をはって住民にゴリ押しするヤクザみたいなやり方とか、事故やいろんな問題を隠したり、権力とつながってやりたい放題……なんかこれはヘンだぞ……とみな思いはじめた。もしかして、ものすごいオソロシイことが、静かに進行してるんじゃ……

これは結局、19世紀のツケの一つだったんだなあ……と今になって思います。原子力の基本的な考え方は、その原理も、技術的な考え方も、実際に社会に浸透させ、実現していくやり方も、モロ19世紀ではないか……19世紀は「理念の世紀」だったと私は思う。そしてそれは、まだ克服されてない……

理念と、それに伴う物語の世紀ですね。ABくんなんか今だにそんな感じですけど、いろんな物語があって、人は物語に酔い、そこにこそ真実があると思う。いろんな人の努力のベクトルを同一方向に揃える「物語」……そういう力のある物語が語られると、人は、なぜか無反省につきしたがう……

すべてを滅ぼす戦争をやってしまうのも、原子力みたいなオソロシイちからを開放してしまうのも、すべては物語の魔力……こわいなあと思います。原子力についても……そういう「原子力物語」が、身のまわりに満ちていた。ガモフさんのお話も、鉄腕アトムも……だれも疑わなかった。



湯川さんがノーベル賞をもらったのも大きかったですね。で、続いて朝永さん。原子核物理って、日本、すごいんだ……とみんなが思った。なんか、原子核の中には無限のお宝が眠ってるって感じでした。そこへ切りこむ最先端の物理学。その先頭集団の中に、日本の科学者がいるじゃないか……スゴイ……

でもその輝ける「物語」もやがて崩壊……一時期、才能のある人たちが原子核物理の方に行かなくなったのは、世界的にみても事実じゃないかな。能力のある人たちが向かったのは生命科学の方向だったと思う……しばらくそれが続いたんですが、最近また、原子核物理の方に人気が出てきたみたい……

セルンの実験で、ナントカ粒子が確認されたのは大きかったかも。今は、スパコンと巨大装置の助けを借りて、また新しい物語が作られようとしているみたいですね……今度の物語は、19世紀を抜けているんだろうか……私はきわめて懐疑的ですが、まあ、理系の詳しいことはわからないので、わからんとしかいいようがない。

最近見たアニメで、セルン陰謀説みたいなものを取り上げているのがあって面白かった。『Steins;Gate』というタイトルで、セルンがタイムマシンの実験で、世界をどーのこーのという……電話レンジ(仮)というニコラ・テスラ的な装置も出てきて、うーん、やっぱりあのあたりはつながってるんだ……という印象。



19世紀って、おもしろいですね。人間の科学ががんばって、ものすごい「物語」をつむぐ……でも、それは結局人間の「物語」だから自然には通用せんわけです。いや、人間の社会にさえ通用しなかったことはコミュニズムの「挫折」で明らかになってしまった……もはや「物語」は無用なのだ……

オバマさんなんか、けっこうそんな感じなのだ……彼は、核廃絶というけれど、あの人は「物語」というものを基本的に信用してないから、それがベースにあってああいう言動が出てくる。だから、彼は、ABくんみたいに「物語」にどっぷり浸かっている政治家は大嫌いなんだろーなー……わかる気がする。

原子力物語……何回事故があっても、悲惨な姿になっても……この物語が生きているかぎり、人類は核からエネルギーを得ることをあきらめない。まあ、一種の信仰ですなあ……人類が、これまでのヘンな「物語」群をきれいさっぱり捨て去るには、まだだいぶかかるでしょう……いつまで19世紀をやってんのか……