『養う人』というと、私は、昔読んだトーマス・マンの『ヨゼフとその兄弟たち』という長編小説を思い出します。ヨゼフはイスラエルの祖であるヤコブの12人の兄弟のひとりでしたが、ヤコブは美少年だったヨゼフを偏愛し、ためにヨゼフは他の異母兄弟たちの怨みを買って、父ヤコブの知らぬ間にエジプトへ、奴隷として売られてしまいます。

ところが、これが、実は「神のなされたこと」だった……エジプトで、ヨゼフはファラオに仕える奴隷となり、やがて自由を得て、ファラオの第1の家臣にまでのぼりつめます。彼は、エジプトの宰相として実権を握ることとなり、今やエジプト全土が彼の思うまま……ヨゼフは、ファラオが見たふしぎな夢の命ずるままに、やがて来るべき大飢饉に供えて、エジプト中の穀物を集めて備蓄する。

で、飢饉がくると、エジプトに、周辺の部族はひれふして穀物を分けてもらいにきます。ヤコブと息子たちのイスラエルもやはりエジプトにやってくる。そこで、ヨゼフは父と兄弟たちに再会し、彼は、自分をエジプトに売った兄弟たちを赦して、イスラエルの部族のためにエジプトの肥沃な土地を与えて、そこをイスラエルの民の暮らす地域として保護します。

こういう次第で、彼は、「養う人、ヨゼフ」と呼ばれるようになった……神は、きたる飢饉をみこしてヨゼフをエジプトに送り、そこで、イスラエルの民を養う準備をさせた……これって、たぶん、かなりイスラエル寄りの身勝手なお話だと思うのですが……これが、さらに、例のモーゼの「出エジプト」につながっていく。映画でいうとチャールトン・ヘストン(というか、セシル・B・デミル)の名作、『十戒』のストーリーですね。

この映画、公開が1956年といいますから、もう半世紀以上昔……でも、紅海が二つに割れるシーンなんか、当時の特撮技術でいうと最高のできで、今見てもかなりの迫力です。この映画を私が見たのは、小学生の頃でしたが……小学校で授業を受けていると、担任の先生が、「お父さんが迎えにきてるから、校門のところまでいきなさい」という。

なにごとが起こったんだろーと、ちょっとドキドキして校門までいくと、父と母と、同じく授業の途中で呼び出された妹がまっていて、家族全員、そのまま父の運転する車に乗せられて(父は当時、商売をしていたので車を持っていた)……で、ついた先が映画館で、そこでやってたのが『十戒』でした。……今から思うと、けっこうスゴイ?親だったなあ……

上映時間3時間の超大作でしたが、飽きることなく……いや、むしろひきこまれて見てしまいました。こどもなのでストーリーとかはあまりわからなかったけれど、モーゼとファラオの魔法合戦?で、神の手が、印のついた門を過ぎ越していくシーンとか……なにやらぶきみな胸騒ぎを感じて、これは、かなり後まで寝るときこわかった……

考えてみればふしぎです。世界には、いろんな民族がいて、いろんな神様がいるのに、イスラエルの神だけ、なぜか東洋の島国の映画館まで出張してきて、こどもに学校さぼらせてまで見にいく家族……いや、父には感謝してますし、うちは別にキリスト教でも、むろんユダヤ教でもなかったんですが……でも、イスラエルの神は、なぜか、極東の国の地方の街にまで、こんな影響力を持ってしまっている……

人間の文明って、ふしぎですね。はるか未来には、飛行機も化石になって、その姿を毎日見ながら飛行する鳥たちに餌をやる少年もいるのかもしれません。彼は、やはり「養う人」なんだと思う。

鳥は、もしかしたら世界、古い世界の象徴なのか……世界は、きっと新しくなる。そこで、一人の少年が、飛行する鳥を養っています。彼は、ヨゼフと呼ばれるかもしれないし、また別の名を持つものかもしれません……いつの情景なのか……私の夢は、しばし金色に輝いて、消えていきます。そして、今日は、クリスマス……