過去世、前世のお話。

 

 

昔の日本です。

時代は、よくわからないけれど、何となく江戸時代とかかなと。

この過去世での私の記憶は、今思い出しても苦い物が込み上げてくる惨めな物でした。

 

過去世の記憶を思い出すといっても、全てを思い出すわけでもなく、どうやら魂に強く刻まれた記憶や、その時の自分に必要な物だけを思い出す仕組みになってるようです。

 

本来過去世は過去の物としてリセットして生まれてくるのだから、思い出さないのが普通なのだと思うのです。ですが、この数年、私は何度も過去世を思い出し、過去の自分や過去の愛する人達と出逢い、辛い出来事も愛した記憶や身を切られるような苦しみにそれを上回る感動を経験しました。

 

私に関しては、全て今の自分が前に進むのに必要な記憶であり、思い出すタイミングも全て目に見えない力に導かれていたのだと段々わかるようになりました。

 

とりあえずこの時の私はとっても貧しし5歳くらいの女の子でした。私は既に両親もおらず、水の汚い川沿いで家と呼ぶにはお粗末すぎる場所で暮らしていました。

 

常に身体は泥と垢にまみれて、自分の身体からは据えた嫌な臭いがしますが、その臭いの中で毎日生活しているので、大して気にもなりません。悩みもなく喜びもなく幸せや喜びもなく、その日食べる物のことだけ考えて生きていました。

 

家族も友達もおらず、孤独で寂しいように思いますが、寂しさを感じる感受性もない無気力な自分です。盗みを働いたり、同じような生活をしてる大人の手伝いをしたりしながら生きながらえ、10歳を過ぎた頃くらい、もしかするともう少し幼い時くらいからは身体を売ることを知り、そうやって生活をしていました。

 

歳を重ねても据えた臭いの川沿いでの生活はただ毎日を無駄にやり過ごす日々。若さと健康が備わってるうちはお客も取れますが、衛生環境も劣悪な中で、割と早い段階で病気になり、そこからはあっという間に弱っていきます。

 

この病気が想像以上に苦しく。

身体が蝕まれ、症状が進み、客足は勿論遠のき、この時の私は早く死にたくてその時が来るのを心待ちにしていました。死に関しては病気になってから望んだのではなく、小さな頃から何処かでこの世界が、自分の命が早く終わる事を願っていました。

 

自ら死に投じるほど意欲的な物でもなく、喜びや希望や優しさや愛のない世界に絶望するほど期待もしていない。ただ、ひとりで飢えと寒さの事だけを考えて生きるという事がとても億劫で気乗りのしない物だったのです。

 

私の思惑は外れ、弱ってはいるものの、中々死ぬことができず、病気の苦しさは思う以上に長く辛かったようです。

 

最後の方は、同じように投げやりに生きているタダ同然で買ってくれる客を待ちながら、感情の起伏も無く淡々とその日がくるのを待ち続けました。

 

ある日死に切れない私は、顔馴染みの男に、お願いだから楽にして欲しいと懇願します。因みにこの男は元気だった時、私の事を好きだと言い、私も少し心を寄せ何度か関係を持った相手です。男は別の女性にとっくに乗り換え、私とは殆ど口も聞かなくなっていました。

 

前世の私と一時でも気が合うような男です。

人を殺めたり、物を盗んだりに罪悪感を抱くような人間ではなかったように思います。

 

彼は初めは面倒くさそうに私の要望を無視しましたが、何度も私が声を荒げたり媚を含み懇願するのを、侮蔑と嫌悪を含んだ憎々しげな目で私を睨み、私の望み通り私の首を絞め殺めようとしました。ですが中々私が死なないからか、顔馴染みで、一度は仲の良かった相手を直接手にかけるのに抵抗があったからなのかはわからないけれど、首を絞めるのを途中でやめて乱暴に私を蹴り倒しました。更にゴロンゴロンと私を川の中へ蹴り落としました。

 

川に落ちた私は流されながら、何度も沈んだり浮かんだり沈んだり浮かんだりを繰り返しながら、この惨めな生涯に幕を下ろしました。

 

誰も愛する事もなく、誰からも愛される事なく、情や優しさとは無縁の過去世。

私自身でさえ、私を守ることも愛することもできなかったこの時の私。

 

この過去世の記憶が生々しく蘇る時、私は光の中でこの時の薄汚れた自分を優しく抱きしめ、ごめんねと声をかける事にしてるのです。