「オッペンハイマー」を見た | あくせくしたってはじまりませんぜ

あくせくしたってはじまりませんぜ

とか言いながら、けっこうあくせくしちゃってるんですが。
まあ、できればまったりと生きたいなあ。



「オッペンハイマー」を見た。
公開最初の日曜日だったが、ガラガラだった。
まあ、今更驚かないが、こういう作品は流行らないのだなあ。

で、作品の感想なのだが、うーん、かなり微妙な作品。
名作とはちょっと言いにくい。
原爆開発の話というより、オッペンハイマーという人物に迫る作品で、その点で、広島や長崎の被害を描いていないことには納得したのだが、その肝心の「人物」の描き方に納得が行かなかった。
率直に言って、アメリカ人以外には、イマイチピンと来ない作品じゃないのかな? これは日本人に限った問題ではなく。
レッドパージ時代のいわゆる「オッペンハイマー事件」の聴聞会がメインで、彼の過去の組合活動などに焦点が当てられているのだが、そこの描き方がもうひとつ、ふたつ、みっつ。
若い時代に組合活動に参加し、アメリカ共産党などに接点を持っていた話なのだが、その人物がどうして国策の主導者になって行くのか? また、後に、核開発に苦悩し、警鐘を鳴らすようになるのか? そのあたりが、ただただスキャンダルとか権力争い的に描かれていて、彼の内面が見えて来ない。かなり長いドラマだったのだが、「いろいろあったけど、結局オッペンハイマーってどういう人だったの?」という大きな疑問が残った。
特に、アメリカのように「共産主義=悪」みたいな感覚をコモンセンスとしていない国の人間には、ほんとよくわからない。それは、そもそもが、出発点の、何が彼を組合活動やスペイン内戦に引きつけたのかが全く描けていないところに起因すると思う。この点、脚本家や監督や制作者側にも「主人公への共感」がなかったからではないか? 「若気の至りで怪しげな組織に接近してしまった」的な薄っぺらい描き方だから、全てにおいて「内面」や「動機」が欠けてしまったのだ。
つまり、「組合活動やアメリカ共産党へのシンパシー」が全く描けてないから、その後の「変節」の内面も描けないし、更に、その後の苦悩も、「とんでもない兵器を作ってしまった」という極々表面的、一般的な理解にとどまらざるを得なかった。
つまり、この作品は、「オッペンハイマー事件」を描いているけれど、オッペンハイマーという「人間」は全く描けていない、という評価をせざるを得ないのだった。