こんばんは。タイから帰国して数日、
日本の秋はどこか寂しく、風の匂いにも静けさが宿っているのを感じます。

画像
風が空を舞い、雲を先へと誘う

しかし、ふと目を閉じると、あの丘の上の風景が蘇ります。脳裏にはっきりと浮かぶ。

朝霧を抜け、黄金の尖塔が陽に輝く——
そこは、ドイトゥン(Doi Tung)。
そして、その丘を愛し、
人々に希望の種を蒔いた王妃がいました。

画像
花に愛でられし王女は天に還られてもなお、貧しき民に光と希望を灯している

ドイトゥンは、タイ北部・チェンライ県の山岳地帯に位置します。
かつてこの地は、ケシ栽培に頼る貧しい村でした。

しかし1988年、**シーナカリン王妃(Princess Mother Srinagarindra)**がこの丘に滞在のための家「ドイトゥン・パレス」を建て、
住民と共に歩む人生を選ばれた。

画像
スイスとタイの融合建築。王妃は絢爛ではなく質実に生きられた。


画像
王妃を静かに偲び讃える広間には、天空の地がその光と愛を注いでやまない。


王妃は申されました。

「貧しさの根を断つには、心を耕すことから始めなければならない」

王妃の導きによって、ケシ畑は花々とコーヒーの農園に変わり、
学校や病院、職業訓練所が生まれました。


その一つが「ドイトゥン・プロジェクト」。
手織り布、陶器、園芸、カフェ——
山岳民族の人々が自らの手で未来を築く仕組みが、今も続いている。

画像
天に還られし王女の意志は、幾重にも連なる花々によって、民の道を照らしている

ドイトゥン・パレスのテラスから、
朝霧の海を見下ろした瞬間、胸の奥が熱くなった。

風がそっと頬を撫で、どこからか聞こえる鳥の声が、
王妃の微笑のようにやさしく響く。

この丘に息づくのは、ただの観光地の風ではない。
それは「母の祈り」の風。

モン族の子らが笑い、村の女性たちが花を編み、
男たちが畑に希望の苗を植える。
その一つひとつが、王妃の愛の証なのだ。

私は思う。

「ドイトゥンとは、母なる祈りが今も生きる丘」

そして、旅人である私も、
その祈りのかけらに抱かれながら生きている。

風が過ぎ、霧が晴れ、光が射す。

すべては、シーナカリン王妃の微笑の中で。