火星の片隅で | 林瀬那 文庫 〜あなたへの物語の世界〜

林瀬那 文庫 〜あなたへの物語の世界〜

作家の林瀬那です。

私が
描いた物語を載せてます。

本棚から本を手にするように
自由に読んで下さい。

よかったら
コメント欄に感想書いてくれると
すごく嬉しいです。

 

 

気がついたら
私は
知らない星にいました。

知らない星で
人知れず、
立ち尽くしていました。

 



映画でも、
テレビでも、
本でも
見たことない風景が、
そこには
広がっていました。

見たことない風景で、
感じたことない気配で、
香ったことのない香りがしました。

手には、
ざらりとした
白いザラメの砂糖を触ったような
感触だけが
ただありました。

恐る恐る
それを舐めてみたけれど、
全く
なんの味もしなかったです。

声を発しても
声が通らず、
さっきから
なんの音もしないので
どうやら音自体が
存在しない星のようです。

 



地球で
さんざん悩まされている
左耳の耳鳴りが
全くしないです。

耳鳴りがしないと
こんなに静かで
快適で、
こんな静けさは
なん年ぶりだろうと思ったら
涙が出そうになりました。



ロケットを
再度
月に設定し直して、
改めて
月に向かおうと思ったんですが、
同時に
私の好奇心が湧き出てきて
おさえられなくなったので、
少しだけ
周辺散策してみることにしました。



ふとみると、
真っ暗な宇宙の中に
地球があって、
そのそばに
月が見えました。

改めて
落ち着いて
こういう風景を
見たことなかったので、
地球のすぐそばに
本当に
月があるんだな。

科学の教科書
まんざら嘘ではないんだな。
なんて
思ったりしました。

歩いている地面は、
よくみると
赤茶けたような
赤っぽい色の砂で、
歩くと
砂けむりが立ち
荒野のような
赤い岩肌が広がっていました。

 



あ!
ここ
火星だ!


ピンときたんです。

赤いから火星
だなんて、
おそらく地球人の発想ですが、

水金地火木土天海冥
の順があっているなら、

地球の近くだし、
赤いし
火星でしょう。



そもそも
月に行く予定が
ロケットの調子がよすぎて
時間短縮されすぎてしまい、
月をすっ飛ばして
火星まで来ちゃったようです。

きっと
私が
ロケットの使用方法を
間違えてしまったのでしょう。

こんなことになるなら
あの時
ちゃんと
話しを聞いておけばよかったです。

 



火星は
私が想像していた火星とは
かなり違いました。


なんていうか
荒れ果てた荒野みたいな
寒々しい
淋しいイメージでしたが、

そういうのではなく、
星の瞬きで
星自体が赤くキラキラしていて、
赤い砂もキラキラしていて
とても美しく、
気配が優しく、
包み込むような空気感でした。

香りも
例えるなら金木犀のような
いい香りが
絶えずほんのりしていたので、
言葉では表せられない安堵感に包まれ
知らない星に
たったひとりでも
怖くも
心細くもなかったです。



さっそく
たこの火星人を探しましたが、
見渡す限り
誰もいなかったです。

そして
誰もいなくなった。


最初から
誰も
いなかった。

 



さてさて、
この星は
おそらく火星でしょうが、

火星の人に
ここは火星ですか?
ってきいても
火星人は
火星って言われてるの
知らないだろうから
確認のしようがないんじゃないかしら。

でも
もし
火星人がいたら、
ここはどこですか
って
きいてみよう
そうしよう!

といいつつも、
私がもし逆の立場だったら
まず
知らない宇宙人に
驚くな。


きっと
今ここでは
宇宙人ですから。

私が
逆の立場なら
知らない人から
突然
ここはどこですかって
きかれても
東京にいたら
「ここは日本の東京です。」
って
答えちゃうよな。

「地球です。」
だなんて
答えないよな
普通は。

あれ?
普通ってなんだろう。
この状況がすでに
異常だから、
なんていうか
普通という常識から逸脱してるから、、

とかなんとか
いろんなことを考えてたら、
目の前に
サングラスをして
恵方巻きを食べながら歩いている
普通の人間らしき人が
通りかかりました。



いつからいたのか、
どこからきたのか、
わからなかったです。

あまりにも
さりげない
日常で
驚きました。

思わず聞く私、
「すいません、
ここは
何処ですか?」

「ここ?
火星だよ」

あっさり火星だと判明し
逆に戸惑う私。

「あ、
そうなんですか」

あれ、
ていうか普通に声が出て
しゃべってる。
でも
普段地球で聞いてる自分の声と
少し違って聞こえました。



「私
地球という星から来たんです。
ここでは
宇宙からきたので
宇宙人かもしれないですが、
なにも危害加えないです。」

と、
私は聞かれてもないのに
スラスラと
まるで疑われた犯人のように、
その人に話しました。

その人は
聞いてるのか聞いていないのか
わからない表情で、
一点を見つめながら
恵方巻きを食べ続けています。

「あ、そう。
で、何処に行ってみたいの?
火星の歩き方
持ってきた?」

「すいません、
持ってないです。
そんなのあったんですね、
本屋さんで売ってるの
みたことなかったです。
新宿の紀伊国屋書店にも
まだ
売ってないと思います。」

「お腹すいたでしょ
なに食べたい?」

月でお団子を
たらふく食べる予定にしてたので、
お腹を空かせてきてしまい、
実際、
お腹はかなり空いていました。

どうやら
この星の人は、
いや
この人がなのかは
不明ですが、
私の気持ちを話さなくても
本音の部分が
わかってしまうらしいです。

「甘いものが
あれば食べたいですけど、、」

見渡す限り
なんにもない風景なので、
遠慮がちに
私は言ってみました。

「あ、そう。」

と言い
その人は、
たこ焼きをくれました。

あれ?
いつから持っていたのでしょうか。

たこ焼き
共食い?あ
たこじゃないか、
この人は。

てか
私甘いものっていったんですけど、、

いろいろ思いながら
たこ焼きを手にとると、

たこ焼きに見えたそれは
たこ焼きではなくて、
ベビーカステラに
チョコがかかったような
甘いお菓子でした。

食べてみると、
これが
半端なく
美味しすぎる!

「美味しいです!
絶品です!」


感動をお伝えすると、

さっきまで
無愛想で
若干不気味だった火星人さんが、
すごーくいい笑顔で
微笑んでくれました。

「でしょ
よかった。」

あら、
火星人さん
いい人そうです、
私もよかったです。

と思ったと同時に
なんか懐かしい気持ちになりました。

なんか
昔からの知り合いに
久しぶりに逢ったような
気持ちになりました。

 



それから
なんだか
話しが弾み、
人見知りの私が
気がついたら
その火星人さんと
火星人さんの仲間や家族たちと、
談笑してました。

火星人さんたちは
基本
地下生活だそうで、
地下にある街は、
おとぎ話の小人のお家みたいで
とってもかわいくて
物語りの世界みたいでした。



みんな
きゃっきゃしてて
すごく素敵な人たちでした。
いや
すごく素敵な火星人たちでした。

地下生活だから
星の瞬きが眩しくて、
サングラスしてたそうです。

怪しい変わり者なのかと思ってました、
ごめんなさい。

皆さん
特に名前がなくて、
固有名詞で名前を呼ばない文化のようです。

半分くらいテレパシーが
使えるみたいで、
会話の半分で
想いをお互い汲み取りあってました。

地球に対する知識は
豊富で、
日本の東京のことも
知ってました。

火星には
地球からの訪問者はまだ少ないけれど、
私みたいに
こっそり来る人や
間違ってくる人は、
珍しくもないそうです。

だから
私のこと
「宇宙人だーー!!」
って騒がなかったのね
よかったです。

前に来てた
地球人よ、
ありがとう。


初めて来たのに、
年末に実家に帰ってきたような
年末に旧友に逢ったような
感覚でした。

火星人さんたちは、
半透明でキラキラした
パステルカラーの
かわいい食べ物を、
楽しそうに
食べていたのが
印象的でした。

私も
羨ましくて、
皆さんから
とめられたのに
とめるのもきかず
食べてみたら、
なんの味もしませんでした。

全くなんの味もしませんでした。



火星の
優しい空気感といい、
火星人さんたちの
あたたかくて
純粋な感じといい
とても居心地がよくて。

壁の鳩時計が
鳴くまで
すっかり長居をしてしまいました。



地球や
月の話しをし、
月に行こうとして、
間違って火星に来てしまったことを話したら、
だったら
すぐに月に移動した方がいいんじゃないか
と、
皆さま
私を心配してくれました。



「そうなんです。
私は
大切なお友達のとこに
逢いに行きたくて、
地球を抜け出してきたのでした。」
と言い、

お礼に
コンビニで
大量購入した
みたらし団子を
皆さんに
差し上げました。



宇宙の中でも
とかく
日本の食べ物は
美味しいから、
嬉しい

みんな
すごくすごく
喜んでくれました。

私も
嬉しかったです。



楽しかったし
お腹も
満たされたので、
火星をあとにすることにしました。



月には
また改めて
地球から
向かうことにし、
一旦
私の
故郷の地球に帰ることにしました。

なんていうか
年末のクリスマスの頃のような、
街中みんなが幸せそうな、
年末にヴェートーベンの第九の合唱を
聴いている時のような、

もうすぐ終わっちゃうけど
終わらないでほしい
なんか楽しいもん!
っていう、
あの感覚に近い
星でした。



そして、
広い宇宙
どこもかしこも
もしかしたら、
とても
居心地のいい
素晴らしい場所しか
ないんじゃないかなと、
普段は
ひねくれ者の私ですが、
そう素直に
思わざるを得ないような
不思議な時間でした。



私は
宇宙のいろんな場所に行ってみたいわけではなく、
単に月に行きたいだけなので、

ロケットは
その為にあり、
火星に行くことは
もしかしたら
ないかもしれません。


でも、
間違って行っちゃった火星は
私の想像を
遥かに超えた
素晴らしいところだったので、
もしかしたら
また
行きたくなるかもしれません。

その時は
また、
訪れたいなと思います。



火星に
たこはいなかった

地球に戻ったら
上野の
宇宙博物館の片隅に、
「火星には
たこがいない」
とだけ
意味深に
書いておきましょう。




~終わり~