手ぇ、つなごっか。
さりげなさを装って言ってみる。
なんでもないことのように。
当然だろ、って感じで。
休日の都心は激混みなんだ。
はぐれるかもしんないだろ。
彼は狼狽して
「えっ…?」
と、気まずい顔を隠さない。
俺の出した右手は
彼に受け止めてもらえずに
空をきり、そして所在なげに
体側に戻る。
今日のところはこれでいい。
彼を狼狽させた、そのことに意味があるんだ。
ただの友達から。
「もしかしたら」
の危機感を植え付ける。
じっくりと時間をかけて。
そばにいるのが当たり前に。
手を繋ぐのが当たり前に。
俺は我慢強い。
急いて台なしになんかしない。
彼を手に入れる。
近いうちに必ず。