整って往きたいね
祖母は63才で急逝した。
脳の血管が切れてしまったのだと、叔母は言う。
困ったな。前の日に一緒にお風呂に入ろうと先に入ってしまった祖母をグズグズと待たせてしまったのだ。湯上りの祖母は赤い顔をしていた。ふやけたかな?
わたしは五歳になっていたから、葬儀に一通り立ち会った。祖母の髪の毛が焦げる匂いが記憶に残っている。昭和40年代の火葬の扉は手動だったのだと思う。
おばあちゃんごめんね。
きっと死の間際までわたしのことを心配してくれていたよね。
幸せに生きる努力をしながら、幸せになりすぎては申し訳ないとブレーキをかけてきた。そんな内心の葛藤をついに言語化できるのは、わたしが63歳になった区切りのせいもある。
わたしはこの世を去る時に何を思うだろうか?
果たされなかった約束を後悔するような気がする。
ということで、まずは夫との約束を果たすことにした。
「定年したら日本全国をキャンプで回る」
これ以上先送りしてはいけない気がして、去年は東海から紀伊半島。今年は四国を徳島から時計回り。
室戸岬、高知の牧野植物園、足摺岬と周り、紫電改記念館という渋い施設にも立ち寄って、戦争に散った教え子のためにと先生と父母を植えたという陽光桜に、思わず涙ぐんだりしながら、宇和島の少し手前の、サウナのあるキャンプ場まで来た。
海を見ながらバレルサウナに入る。
「整うってどういうことだろう?」と夫。
「今、やっとそんな感じになってきたのに、話しかけないでよ」と私。
外に出てからふと思う。あの“言い返し”がいけなかったなあ。
などというこちらの繊細な気遣いをよそに、
夫は平気でビールを飲んでいる。相撲の結果を気にしている。
「整わなくてもいいや。満足したから。」
「アハハ、それを整うっていうんじゃないの?」
四国巡礼40番札所が近くにあるそうなので、祖母に手を合わせて、感謝の報告をしよう。大丈夫。幸せに生きていますよ、と。