人間やじろべえの『少年時代』を語らせろ 第2回

 藤子作品を中心にマンガ大好きだが、意外と最近の作品には疎いDJ:人間やじろべえです。『よろしくメカドック』。さて先月まで『さくらディスコード』の単行本レビューを「8月は夢花火。私の心は夏模様」という気持ちで月1連載していた訳だけど、何故か無性に藤子不二雄A先生の『少年時代』を『さくらディスコード』ファンに紹介したくなったので『少年時代』を単行本ごとに語ろうと思って今回より連載することになってしまいました。そんな訳で最後まで『よろしくメカドック』。

まずは『少年時代』がどんな作品なのか簡潔に紹介するよ。

・『少年時代』(週刊少年マガジン78年37号~79年34号)連載

 
単行本紹介

 僕の手元に或る単行本が藤子不二雄Aランド版なので、Aランド版を語ろうと思ってます。単行本は全5巻なので5ヶ月に渡って連載予定。Aランド版が刊行されたのは10年前なんだけど、単行本自体はAランドより先に刊行されてる中公文庫全3巻の方が入手し易いかと思います。只、一昨年にA先生の漫画家60周年を記念した新装復刻版の上下巻が刊行されたので、大手書店に行けば新装版が入手し易いかも?


・・・・・夏が過ぎ、風あざみ、誰の憧れにさまよう。青空に残された私の心は夏模様。

 ご存じ、井上陽水氏の名曲『少年時代』からの引用です。実は、この『少年時代』って90年に公開された『少年時代」って映画の主題歌で藤子不二雄A先生自らがプロデュースした作品でアカデミー賞を受賞し、現在でも主題歌だけは有名な作品。・・・・・何てことだ。別れのシーンで主題歌が流れるから名作なんだよう!

 
 実は『少年時代』には原作が存在し、72年に38歳で亡くなった芥川賞作家:柏原兵三さんの『長い道』。柏原さんは藤子先生と同学年で縁故疎開当時の自分と重ねたA先生は、この小説をマンガ化することを夢見て、週刊少年マガジンの連載の依頼で「書きたいものは或るけど、人気は取れないよ」と説明したら当時の編集長が「人気関係なしに連載しましょう」と1年契約で承諾してしまったのだ。さて、ここで内容を紹介しよう。

内容紹介
 太平洋戦争末期、昭和19年の夏、東京・世田谷国民学校五年生の風間進一は、富山県泉山村に縁故疎開し、村のたくましい少年タケシと出会う。ふたりだけでいるときのタケシの優しさに、進一は友情を感じるが、その一方で、突然威圧的になるタケシの二面性にとまどってもいた。
 山村の美しい自然を背景に繰り広げられる、少年たちの切ないまでの心の葛藤のドラマ


・・・・『さくらディスコード』とどう共通するのかって?何故「この作品のタイトルが『少年時代』なのか?」を考察すると『さくらディスコード』と共通するものを感じるんだよね。そして『少年時代』と『さくらディスコード』の中間が『半分の月がのぼる空』だと個人的には感じてる。そして3作品それぞれが「大人の階段昇る」少年たちの切ないまでの心の葛藤のドラマを描いた作品だ。


・藤子不二雄Aランド版2巻(週刊少年マガジン78年47号~79年5・6合併号)収録


 この作品のテーマを語るとしたら「少年社会ゆえの縮図」と言える気がする。タケシを頭の良いジャイアン=タケシと喩えたが、相撲好きの自分からすると「朝青龍=タケシ」という喩え方もしている。僕は朝青龍を熱い人柄な面では横綱としての強さも含めて好感を抱いてるので、安易にヒールとして喩えたくは無いのだが、学校では当然ながらタケシの独裁者ぶりが目立つ。普段は進一に優しく面倒見の良いタケシだが、何しろ進一は将来東大を受験しようと思ってる程に頭が良い(身の程知らずでも無ければ、彼にとっては嫌味感覚が一切ないという意味では本当に秀才なんだと思う)。どちらかと言えば「クラス全員と対等に付き合いたい」と願望する進一に対して、タケシの場合は進一へのライバル心からの嫉妬が激しく、都会育ちの進一へのコンプレックスも内包している。だから進一の書道に関心して「タケシより凄い」と誉めてしまったシゲルに組織的な制裁し、シゲルには6年生の兄貴がいるんだけど、シゲルに無理矢理に白状させた兄貴が敵討ちに参上してタケシとのタイマンでボコボコにしてしまう。自分と真逆な存在だが、一方で頂点に立った人間ゆえの孤独の哀愁感も拭えない。

 そして上記で書いた通りに「少年社会ゆえの縮図」と書いたが、組織の一員として空気が読めないのは致命的なことも(連載中どころかAランド刊行当時でさえ「KY」という言葉は無かったと思うけど)テーマとして描かれてる。僕は「過剰に気を遣うことで押し付けられる息苦しさ」を意味しているようで嫌悪感を抱いてしまうんだけど、だが一方で僕は男の子として育ち、組織の縮図も承知しているので「何者にも屈せず自我を貫こうとする責任感」は尋常ではない覚悟が無いと出来ないのも承知している身分だ。

・タケシに貢ぎ物を差し出して機嫌を取るようなことしてたまるか!!のけ者にされた方がマシだ。
                     ↓
・ノボルが煽ったせいもあって、花林糖を貢ぎ出すことを約束する
                     ↓
・タケシの横を歩く立場に戻れたけど、結局、自分も同じことに自己嫌悪する

 という進一の内面描写が描かれてる。実はこういった描写は3巻で似た様なケースが発生して名エピソードと化してしまうことが発生する。その名エピソードは来月に紹介する予定だが、実はこの作品では目立たない側のキスケが名アシストを発揮するキーマンとなる。スイカ盗み食いでは素早さを発揮するし、タケシVSフトシの状況分析ぶりと言い、結構キスケって目立たないながらも読者の視点としては存在感を発揮してるよね。

そして花林糖自体は実は、やはり東京から縁故疎開した美那子宛に戦時中ながら無理して仕送りされ、分けて貰ったものなのだけど、その美那子自体がタケシが進一に嫉妬からの傲慢な態度で接してしまう要因の一つでも或るんだよね(何となく意味は解ったね)。俺は藤子A先生が描く女の子キャラの気の強さからの優しさ的な面で尊敬してたりするし、美那子もその一人なんだけど、少年社会を知ってる身分の自分としては、だからこそ美那子のKYぶりに「疫病神だ」と思っちまうね。そういえば庵主さんも進一進二兄弟を預かった保護者として大事に可愛がっているのだけど、結構KYなんだよね。

 フトシがタケシに対決を挑む。家庭の環境から農作業で身体を鍛えたとは言えども、体躯で勝るフトシが優勢の中でタケシの反撃が始動した死闘のクライマックスを迎えたところで3巻に続く。