ピカデリーのポイントを1人分消化する形で日曜日に『渾身』を鑑賞しに行った。今年に入って劇場で鑑賞した作品は『宇宙戦艦ヤマト』2199ー第4章「銀河辺境の攻防」ーに続いて2作目だ。「まさか相撲で泣くなんて」というキャッチフレーズでピカデリーでは宣伝していた作品。相撲好きで泣ける作品も好きな自分は、とりあえず確認しに行かなければ気が済まなかった。何故、こんな変な日本語を使用したのかと言いますと


>「まさか相撲で泣くなんて」・・・・・スポーツが好きな人だったら競技関係ねーだろうが!!


 相撲の映画ってと本木雅弘さんが主演の『シコ踏んじゃった』を思い出す。卒業に必要な単位が足りず、廃部寸前の相撲部の大会に出場したら卒業させる物語で、中身はベタなストーリー展開がわかり易い面白さを感じる作品なんだけど、公開当時は若貴ブームで俺がまだ小学生の頃だから、もう既に20年以上経ってるんだね。当時は流行っていたんだけど、この「まさか相撲で泣くなんて」というキャッチフレーズが20年という時間を感じて溜め息が出るね。そして『少年時代』も井上陽水さんの名曲は現在でも知れ渡ってるけど、同名映画の主題歌ってことが知られてない現状が藤子ファンとして寂しい。

 さて相撲マンガってと俺が小学生の頃に『ああ播磨灘』がアニメ化されてる以外に、ちばてつや先生の『のたり松太郎』はロングランしているが、個人的に『おれは力だ』を泣ける相撲マンガとして勧めたい。とにかく先輩の滑川の力士としての生き様や、序の口に陥落した場所で勝ち越して土俵を去る姿とか泣ける。「まさか相撲で泣けるなんて」というキャッチフレーズは偏見からの舐めた発言としか思えない。そして、他に不安視していたことがあった。それは


>主演の青柳翔さんって存じないけど、イケメンだよな


・・・・・せめて、イケメン俳優を起用するなら元力士の白川裕二郎さんを起用しろよ!と思ったのも真相。『シコ踏んじゃった』の場合みたいに「初心者の素人で落ちこぼれ集団が強くなる」という設定なら、解るとしても、遷宮相撲で正三位大関に選ばれる実力者だろって鑑賞前は思ったんだよね。さて現在、初場所開催中な訳ですが、当日は八日目の日曜日。前日に優勝32回果たした大鵬が亡くなり、正面解説は案の定、北の富士勝昭さんだが、調べてみたんだけど、大鵬が引退したのは昭和46年5月場所。北の富士が横綱昇進したのは昭和45年3月場所。同時代どころか1年も揃って横綱だった訳である。当日の中継をリアルタイムで視聴したかったが、時間帯的に夕方までしか上映されてなかったし、中入りの時間に「大鵬を偲んで」を放送し、尚かつ北の富士勝昭さんが正面解説の日に日曜とは言えども、どれだけ鑑賞しに来るか、興味本位でピカデリーに行ったんだけど、入場10分前に予約したら、ほとんど満席に近かったことに驚いたね。

 
 さて鑑賞した結果だと、決して自分が不安視する程、ダメ映画でも無かった。寧ろ、邦画ならではの良さを感じたぐらいだ。何が邦画ならではの良さかと言うと。


>隠岐の島にて実際に20年に1度に催されてる遷宮相撲を取り上げてる。


 これは邦画ならではのメリットだ。そして八角部屋の幕内力士:隠岐の海は隠岐の島の出身らしくゲスト出演されてるのもサービス精神を感じるし、相撲愛には溢れてた。青柳翔さん演じる主人公:坂本英明は結婚式をドタキャンして、駆け落ち同然で島を出ていたんだけど「前を向いて生きてくために地元に戻る」ことを決意した訳で、それが島の伝統の相撲を始めたきっかけでもあった訳なので、寡黙な青年の葛藤ドラマとしても面白い。だが、敢えて言おう。


>病死した先妻:麻里(中村麻美)との間に産まれた一人娘の琴世(井上華月)が麻里の親友でもあった多美子(伊藤歩)に「お母さん」と言えずにいたという別のドラマ設定まで必要無かったではと思う。


 上記の設定にも泣けた方々には申し訳ない。川上健一さんの原作付きらしいので「原作未読者が原作の設定そのものを批判しているタチ悪さ」に憤りを感じるかもしれないのを承知で敢えて書くけど、

・結婚式をドタキャンして島にいられなくなり、駆け落ち同然で島を出る。
        ↓
・前を向いて生きてく為に島に戻ることを決意する
        ↓
・父親に勘当された身でもあり、島の人が受け入れて貰えず、仕事も決まらない中で隠岐の島の伝統文化の相撲を始める。
        ↓
・黙々と稽古を重ねて、仕事も内定する
        ↓
・努力の結果、正三位大関に選ばれる実力者に選ばれるも、対戦相手が20年前に強過ぎて「取らずの大関」だった男のサラブレッド。
        ↓
・勘当していた父親が声援を送る
        ↓
・対戦相手も含めて、島の人全員に讃えられる

 というシンプルな筋書きでも充分に泣けると思えるんだよね。逆に「シンプルすぎだろ」ってツッコミを入れられるかもしれないけど、隠岐の島の遷宮相撲を取り上げるだけでも立派な個性だと思うし、シンプルだからこそ普遍性を感じて解り易い訳だからね。

 それにファミリーものの泣ける作品って珍しくもなんともないし、パンフレットによると錦織良成監督が自ら脚本も書いてるんだけど、著者も監督も男性なのも多美子サイドに物語を書くのにプラスになってないと思う。多美子は琴世を可愛がってるのは事実だけど、それと同時に母親にならなければいけない訳だし、琴世に母親が必要で正明を愛してるのは事実だけど、亡くなった親友の夫を略奪するような後ろめたさも感じてると思うんだよね。とはいえ遷宮相撲にて正明の両親と麻里の両親の両方が応援に駆けつけるののは麻里が亡くなってるからこそ名シーンだと俺自身も感じたんだけどね。

 個人的に『渾身』を恋愛ものとして捉えるなら清一(甲本雅裕)と信江(財前直見)の幼馴染み中年カップリング成立の方が好きだね。


清一「貯金はありません。でも、船はあります」


 最高すぎる名セリフだ。脇役にベテランキャストを多く起用し、ユーモア溢れた演出もエンターテイメントとしての面白さを発揮されてたね。


 パンフレットの錦織監督のインタビューによると青柳さんをオーディションで発掘して主演にキャスティングした要因は「昔の男の匂いを感じた」からだそうだ。そして原作付きながら川上健一さんのインタビューが無いのが気になってしまうね。