昨年の11月。
バイト先の近くのサンドイッチ屋さんの「ドリンクチケット」を6000円分買った。
600円で飲み物5杯をもらう権利が手に入るドリンクチケット。
1杯あたり120円。
僕は飲み物を50杯飲む権利を手に入れた。
そこは飲食店にしては静かなことも多く、色々作業するにもいいので、バイト中の昼休みは大抵その店で過ごす。
頼むのはいつもココア。
ドリンクチケットで交換できる飲み物の中で最も高いからだ。
普通に買ったら1杯230円だが、僕は1杯120円で手にすることができる。
悲しいことなのは分かっているが、行くたびに差額の110円をもらえたような錯覚に陥るのがやめられない。
今日も今日とてその店へ。
レジの方は新人さんのようで、胸には研修中の札。
僕の前のお客さんの会計に手間取っている。
席が空いていればいいなぁと思いながらボーッとしていたら、店の奥からベテランっぽい店員さんが出てきた。
「ドリンクのお客様、少々お待ちくださ〜い!」
並んでいるのは僕だけだ。
僕は「ドリンクのお客様」と認識されている。
急に恥ずかしくなってきた。
恥ずかしさをごまかすために久々にサンドイッチでも頼もうかと思った。
僕は昼食を済ませてしまっていたが「あの人はドリンクしか頼まない」という店側の読みを覆したい。
新人さんもサンドイッチの具を増やせるオプションを案内してくれている。
お腹はいっぱいだ。
余計なお金は使いたくない。
でも、「いつもドリンクしか頼まないやつ」と思われたくない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
「ドリンクのお客様」は今日もココアのみを注文した。
店員さんたちの間でアダ名がついていてもおかしくない。
僕はどんなアダ名で呼ばれているのだろう。