080901_2114~02.jpg
『ほら、見て。
真一郎くん、
雨に滲んで、
向こうのライトが
丸く光っている。
すごく綺麗だね。』


私は言った。

真一郎くんは
答えなかった。



それは本当に綺麗だった。


街灯の光の向こうに
街道沿いの看板の
青い光が映って
二重のぼんやりとした輝きになっていたのだ。


道も虹色に濡れていた。


神様が私の悲しみを和らげようとして見せてくれているみたい、と

私は思った。


景色がにじんで
泣いてくれているので
私は涙を流さなかった。


ただ心の中がずたずたに切れて血が出ているだけだった。

期待は全て裏切られ

悪い予想はみんなその通りになった。

なんていうことだろう。


そして私の心の中のどこかは

それが正しいことだと
しっていた。


それがいちばん
悲しかった。


これでいいのだ

こうなるべきだったのだと

私の心が小さい声で

しかしはっきりとした
発音で語っていた。



その声にしたがって
私はこれまで生きてきた。


そしてその声を無視すると

その時は誤魔化せても

きっとまた同じ所に

戻ってきてしまう。


そのことも
わかっていた。

そして

その吸い込まれるように
滲んだ美しい青い光の中で私たちは永遠に


別れた。





word by
新潮社『Oukoku』
Banana Yoshimoto