「首相と財務省「妥協の産物」定額減税の限界 政権の意識のずれは想像以上 国民は消費せず貯金、将来くる「増税」の備えに!」
今月から所得税と住民税の定額減税が始まる。
減税は「賃金と物価の好循環」を達成する上では重要な政策だ。岸田文雄首相も自らへの「増税派」という批判をかわすために最大限に強調したい政策だろう。
ただし、世間や専門家の間で評価は低い。
なぜだろうか?
【イラストで解説】「中間所得者にもうれしい」収入で変わる定額減税
まず遅きに失している。
高橋洋一嘉悦大学教授が指摘しているが、足元では最大で20兆円程度の総需要不足がある。
少なく見積もっても10兆円はあるだろう。
総需要不足とは、経済全体でモノやサービスを買うおカネが不足していることを意味する。
金額が大きいほど不況感は強まる。
筆者も昨年のうちに減税を行うべきだと指摘していた。
岸田首相は、春闘の賃上げの勢いを減税でサポートする狙いを述べている。
その前提には、賃上げが総需要不足を実現するには十分だという楽観論がある。
定額減税は、物価上昇によって賃上げが「減額」される分を補う役割だと、政府は今まで強調してきている。
これは定額減税そのものに、総需要不足を解消する積極的役割を与えていないことを意味している。
民間経済の力が弱い時は、政府や日銀の景気対策で解消するというのが基本だ。
だが定額減税は通常の逆だ。
総需要不足は民間の賃上げだけで解消可能という考えで、定額減税は単にその穴埋めでしかない。
過去の民主党政権が好んだ「再分配政策」に、今回の定額減税の役割は似ている。
そもそも民間経済が弱いので総需要不足なのに、その民間経済(賃上げ)に大きく期待していること自体がおかしな話だ。
要するに財政をあまり出したくない財務省と、増税派のイメージ払拭を狙った岸田首相の妥協の産物が、定額減税なのだろう。しょぼい政権のしょぼい経済対策というわけだ。いまのところ減税は1回だけなので、その意味でも効果は限定的だ。
来年、定額減税がなくなれば、事実上の「増税」になると感じる国民も多いだろう。
定額減税されても消費せずに、貯金して将来の「増税」に備える家計も多いはずだ。消費の低迷が続く日本経済の足かせは外れそうもない。
賃上げと定額減税の効果で、景気が上向く可能性はある。
ただし、一時的なもので力強さには欠けるだろう。いまの岸田政権の認識と国民の意識のずれは想像以上に大きい。
多くの国民は、給料明細の減税額をみて、そのしょぼさに失望するかもしれない。
減税するならば、総需要不足が解消して、経済が安定化するまでの消費税減税がベストだ。
あるいは「再エネ賦課金」の廃止でもいい。
消費税減税と似た効果が期待できる。だが、それができないのが「増税派」の岸田首相の限界なのだ。