🇺🇸 APEC米国高官ブリーフィング、「米企業の機会拡大」を語る

— 台湾と韓国に関する質問には、答えがなかった



8月28日午後4時(韓国時間)、米国務省アジア太平洋メディアハブがオンライン記者ブリーフィングを開いた。登壇者はケイシー・メース(Casey Mace)APEC担当米国高級実務者。大連で開かれた第3回高級実務者会合(SOM3)の結果と、域内で米国企業の機会を広げるための優先課題が予告されたテーマだった。




📌 主な内容

・代表団100名超。参加エコノミーの中で最大規模

・ワークショップ4本を主導 — 海洋技術、サービス貿易、サプライチェーン、労働

・林業担当大臣会合で違法伐採対策を議題化。米国産木材・林産品の輸出が不利になる、と理由を明示

・食料安全保障担当大臣会合で、米国産農業バイオテクとAI活用農業への支持を確保

・労働ワークショップは、域内の慣行が米国の基準に達しておらず米国の労働者が不利になっている、という問題意識から出発


環境、食料安全保障、労働という言葉は繰り返し出てきた。だが文の終わりは、いつも米国の輸出だった。


❓ 8つの質問

1️⃣ カンボジア KPT English — LDC卒業への支援

2️⃣ 中国 21世紀経済報道 — 今年の米国のAPEC関与の水準

3️⃣ ベトナム VTC News — 2027年議長国に向けた準備

4️⃣ ブルームバーグ — 深圳CEOサミット、トランプ大統領の出席可否

5️⃣ パプアニューギニア South Pacific Post — 農漁民の輸出ルート(司会者代読)

6️⃣ サウスチャイナ・モーニング・ポスト — 半導体関税

7️⃣ 台湾 TVBS News — サプライチェーン戦略における台湾の位置

8️⃣ インドネシア Jakarta Globe — 重要鉱物協力




質問した8社の中に、韓国と日本のメディアはなかった。参加者名簿は公開されていないため、接続の有無までは分からない。


🔍 6番目の質問




SCMPの記者が尋ねた。米国が半導体関税を検討中との報道が出たが、影響を受ける国々と協議はあったのか。そのうえで、台湾と韓国を名指しした。


前日、ポリティコがノートPC、ゲーム機、データセンター向けサーバーまで対象を広げる案を報じた直後だった。国別に税率と輸入枠を設定する案まで取り沙汰されている以上、これ以上に急を要する質問はない。


関税そのものには答えが返ってきた。大統領は貿易の再均衡に注力しており、関税は複数ある手段の一つで、APECの市場開放の作業も同じ目的に資する、という説明だった。関税を語れない場ではなかったわけだ。


⚠️ ただ、台湾・韓国と協議したのかという部分だけが、答えから抜け落ちた。拒否でも留保でもない、欠落だった。追加質問はなく、司会者はそのまま台湾の記者に移り、32分間を通じて「半導体」という語は一度も発せられなかった。😨


一点、はっきりさせておきたい。答えから抜け落ちたことと、協議がなかったことは別の話である。公開のブリーフィングで二国間協議の中身を明かさないのは通例であり、関税は商務省と通商代表部の所管でもある。ただ彼は関税そのものについては説明した。答えなかったのは、協議の有無のほうだった。


🔢 品目番号で見ると


1月の大統領布告11002号が232条に基づき先端半導体に25パーセントを課したとき、対象は3つだった。8471.50(高性能演算向けチップモジュール)、8471.80(データ処理機器用の一部高性能半導体)、8473.30(データ処理機器の部分品、特定の先端チップ部品を含む)。エヌビディアのH200とAMDのMI325Xがここに入り、米国内のデータセンター、R&D、スタートアップ、修理、消費者向け用途は適用除外となった。


今回の拡大案の品目番号はまだ公表されていない。争点は1月に設けられた適用除外が次の措置にも引き継がれるかで、商務省関係者は非公開の協議でそのまま維持されない可能性を示唆したという。


🇯🇵 日本はすでに広範な232条措置の対象である


ジェトロの整理で、直近1か月だけを拾ってもこうなる。


・自動車、同部品 — 232条の25パーセントを、MFN税率込みで15パーセントに調整

・鉄鋼、アルミ、銅 — 賦課中。8月7日に派生品追加のパブリックコメント募集を開始

・特許医薬品 — 8月3日、232条追加関税の賦課開始

・ポリシリコン — 8月6日署名、12月発動。2804.61.0000は1キロあたり21ドル、インゴットとウエハー(3818.00系)は1キロあたり100ドル、太陽電池(8541.42)は1ワットあたり0.22ドル、モジュール(8541.43)は1ワットあたり0.38ドルの最低輸入価格に、15パーセントの従価税が加わる。232条で最低輸入価格が導入された初の事例

・ドローン、同部品 — 9月3日発動。最大離陸重量25キロ超、熱画像装置搭載、ドッキングステーション等は100パーセント(9903.08.21)、標準型は25パーセント(9903.08.22、対象は8806.21〜93)。ただしEU、韓国、台湾、スイス、リヒテンシュタインはMFN込み15パーセントが上限、英国は10パーセント


自動車の項目は注目に値する。25パーセントが15パーセントに調整されたのは、日本が交渉で得た結果である。232条の下でも交渉の余地がないわけではない、ということだ。


関税だけではない。日本経済新聞が8月15日に共同通信経由で伝えたロイター報道(「トランプ政権、AI開発競争で陣営選択迫る 中国選ぶなら排除」)によれば、米国はパックス・シリカ参加国を中心とする30か国以上に書簡を送り、中国主導の「世界AI協力機構」に重複参加する国は米陣営から排除すると警告する準備を進めているという。現時点で両方に加わっているのはカザフスタンだけだ。


同じ紙面の3日後には、別の絵が載った。世界銀行が7月に所得区分を更新し、ベトナムとフィリピンが上位中所得国に昇格。その原動力が半導体だという分析である。フィリピンは4月にパックス・シリカ宣言に参加し、電子製品が輸出額の5割超を占める。タイは2011年に上位中所得国へ移行して以降、先端産業の育成が遅れ、周辺国より早く高齢化が進み、成長は域内で最低の水準に沈んでいる。


💭


APECは強制力を持たない協議体だ。合意文書はすべて自発的で非拘束的である。あの日、その構造が実際にどう使われているのかが見えた気がした。


米国は二つの回路を、分けて使っている。


ひとつはAPECだ。21のエコノミーが集まり、ワークショップを開き、閣僚声明を出す。誰も強制されないから、誰も強くは反対しない。違法伐採対策や食品安全規制の調和といった議題は、ここで「支持」を集める。


もうひとつが1962年通商拡大法232条(Section 232 of the Trade Expansion Act of 1962)である。特定品目の輸入が国家安全保障を脅かすと商務省が認定すれば、大統領布告ひとつで関税が発効する。相手国との合意も、協議の義務もない。鉄鋼、自動車、医薬品、ポリシリコン、ドローンがこの条項で処理されてきた。半導体も同じ条項の上にある。


前者は名分を積む場であり、後者は決定を下す場だ。APECで協力したからといって、232条で自動的に減免されるわけではない。


とはいえ232条が閉ざされた扉というわけでもない。日本は自動車で税率を下げ、韓国はドローンでEU、台湾とともに15パーセント上限を得た。ただしその交渉は、APECの会議場ではなく別の場で行われる。二つの回路が交わらないというのは、そういう意味である。


韓国は昨年12月に発足したパックス・シリカの創設署名国である。AI半導体のサプライチェーンをともに守ろうという、米国主導の連携だ。その一員でありながら、同時に関税拡大の最大の被害が想定される国でもある。名簿に名前があることと、その名簿が実益を保証することとは、別の話だ。


🗓 11月18日から19日、深圳でAPEC首脳会議が開かれる。そこまでの期間が、半導体関税の行方が定まる区間と重なる。首脳宣言にどんな文章が盛り込まれようと、決定は別の回路から出てくるのだろう。その回路に何を持って着くのか。残る3か月の課題である。


📚 出典

・U.S. Department of State, Asia Pacific Media Hub「Press Briefing: U.S. Senior Official to APEC on Economic Leadership」2026年8月28日

・Politico、2026年8月27日 — 半導体関税の対象拡大検討に関する報道(ロイター、CNBCが後追い)

・財経新聞 2026年8月28日「米政権、半導体関税の対象拡大を検討か―ノートPC・ゲーム機・AIサーバーも浮上」 — 大統領布告11002号の内容および適用除外の争点

・KPMG Taiwan, e-Tax Alert 215(2026年1月) — 1月措置の対象 HTS 8471.50 / 8471.80 / 8473.30

・Wiley LLP、2026年8月「Trump Administration Imposes Section 232 Tariffs and Minimum Import Prices on Polysilicon and its Derivatives」 — ポリシリコンのMIPおよびHTS

・Sobel Network Shipping、2026年8月21日「Section 232 Tariffs on Drones & Components Take Effect Sept. 3」 https://sobelnet.com/section-232-tariffs-on-drones-components-take-effect-sept-3-key-rates-exemptions-and-hts-classifications/

・日本貿易振興機構(ジェトロ)「米国関税措置への対応」 https://www.jetro.go.jp/world/us_tariff/usa.html

・日本経済新聞 2026年8月15日「トランプ政権、AI開発競争で陣営選択迫る 中国選ぶなら排除」(ワシントン=共同、ロイター8月14日報道を引用)

・日本経済新聞 2026年8月18日「ベトナム・フィリピン、半導体で狙う高所得国 ASEAN成長序列に変化」(マニラ=藤田祐樹、ハノイ=新田祐司、ジャカルタ=押切智義、バンコク=赤間建哉)

・U.S. Department of State「Pax Silica」 https://www.state.gov/pax-silica

・APEC「China Unveils APEC 2026 Theme and Priorities in Shenzhen」2025年12月12日 https://www.apec.org/press/news-releases/2025/china-unveils-apec-2026-theme-and-priorities-in-shenzhen

・李周官ほか「2026 APEC通商担当大臣会合の結果と評価」KIEP『今日の世界経済』26-18、2026年8月3日


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