ムスリムの観光客 | Sonia's Travels

ムスリムの観光客

ランカウイ島は最近でこそリゾート地として注目されるようになったが、ホテル以外の場所ではのどかな風景が広がり、島の人々の暮らしが身近に感じられる。舗装された道路脇の水田では牛の群れがのんびり草を食み、あるいは小さな漁船が静かな海を船出していき──。

開発されたリゾート地ではお目にかかれない光景があるのも、この島の魅力であろう。


ところが、そんなのんびり気分に水をさすものが! それは中東からの女性観光客の姿である。

マレーシアがイスラム教の国であることはもちろん承知していた。マレー系の女性が頭に布をかぶって髪の毛を見せないようにしているのも知っている。宗教によって衣服まで統率されるのは難儀ね、くらいの感想で、不快感などはもちろんない。

そんなマレーシアが近頃、中東からのお金持ちの観光客を積極的に受け入れているらしく、ランカウイ島でも大勢の家族連れやカップルを見かけた。なぜ中東だということがわかるのか? それは、彼女たちが頭につけた真っ黒のベールと、やはり真っ黒の足首まで覆う長衣から判断できるのだ。顔にも黒い布をたらして、かろうじて目だけが見える状態である

では、男性陣はというと、いかにも南国リゾートにふさわしいカジュアルなTシャツに短パン姿。これってあんまりではないか? レストランでもプールサイドでも海辺でも……、あらゆる場面で女性は黒尽くめのこのスタイルを崩すことがないのに、男性や子どもは水着で楽しそうに遊んでいるのだ。


レストランでの彼女たちの様子をさりげなく観察してみた。というのも、顔にベールをたらしたままでどうやって食事をするのか興味があったからである。食事の時だけはベールをはずすに違いないという予想も空しく、彼女たちはまるで手品師のごとく離れ業をやってのけた。

手に持ったフォークで料理を口元に運び、ほんの一瞬だけベールを片側だけめくって素早く口に入れたのだ!

おそらく1秒の半分にも満たない早業だったのではないだろうか。あまりのことに呆然としてしまった……。

自国ではある程度の制約は仕方がないとしても、せめてリゾートではもっと自由にできないものかと思う。同じ女性だからこそ、こんなにも気になるのだろう。



メッカの方向


この金色の矢印は、コテージの机の引き出し部分に貼り付けられていた。初めは何の印なのかまるでわからなかった。が、黒尽くめの女性のことを考えているうちにハッと閃いたのである。そう、これはイスラム教徒の聖地メッカの方向を指し示しているのだ。さすがムスリムの国。いつでも正しい方へ向かってお祈りできるようにしてあるのだ!


のんびりすごしに訪れたランカウイ島だったが、思わぬ光景に遭遇して、宗教観の違いや女性の地位向上など、いろいろなことを考えさせられる旅となった。