そこからの日常は、
地獄の黙示録よろしく狂気の沙汰だった。
 
 
 
全ては仕組まれたことだったのだ。
 
 
 
2018年、環境科学者が地球温暖化についてずっと警鐘を鳴らし続けてきたが、このままいけばあと20年で人類は滅亡をすると宣言をした。
 
 
誰も本気にしなかった。
しかし、事実だった。
 
 
 
各国首脳は表向きの対策と、極秘の対策を考えた。
 
 
表向きの対策は、皆知ってるような内容だ。
何年までにCO2を何パーセント削減。
至って聞きなれた話で、いつも達成できないアレだ。
 
 
 
極秘の強行策とは。
 
 
そう。簡単に言えば地球上の人口を減らすこと。
増えすぎた人口自体を減らしてしまえば、自ずと経済活動も減り、環境問題は解決されると考えたのだ。
 
 
 
 
 そこでばらまいたウイルス。
これは、中国が役を買って出てくれた。
 
 
 
食べれるものは何でも食べると地球上で知られているので、未知のウイルスが発見されても何らおかしくない。
 
 
 
実際、全世界の人が中国から出たウイルスと聞いても何も疑いもしなかった。
 
 
 
一旦ばらまいてしまえば、後は人間が自然に広めてくれる。
 
 
ウィルスが脅威となって広がり始めたころ、
各国は対策の一環として経済活動の一時停止を行った。
地球環境は一気に改善し、今まで見えなかった遠方の山々までが見えるようになった。
科学者たちは、確信を得た。
間違いない。
 
 
 
各国の罹患目標は人口の10%とされた。
カモフラージュに大統領や首相と呼ばれる人たちも弱いウィルスにかかって見せた。
 
 
 
日本は、簡単にいかなかった。
日本人は消毒や予防に真面目だったからだ。
 
 
なかなか人口の10%もいかないことは、想定内であり、GOTOキャンペーンなるものも先んじて準備していた。
 
 
 
旅と食べ物。
 
 
 
誰しもが飛びつくカテゴリー。
作戦は上手くいった。
 
 
罹患者は、劇的に増えた。
キャンペーン中止の声も多数上がったが、中止できなかった。
中止してはいけないのだ。
 
 
それぞれの国で、累計罹患者数が人口の10%を超えたくらいで、ワクチン接種もままならないのに、不思議なくらいウイルスは落ち着きを見せ始めた。
 
 
 
落ち着くのに2年くらいかかっただろうか。
幸い、両親や妹夫婦もそのウイルスにはかからずに済んだ。家を出ていった元夫や義両親もかからなかったと風の噂で聞いた。
 
 
その時は、かかったのが自分だけで済んで良かったと喜んだものだ。
 
 
 
 
その時は。
 
 
 
 
やっとで元の生活ができるとみんな喜んだ。
経済効果も抜群だ。株価も全世界で大高騰を見せた。
 
 
 
そう喜んだのも束の間、
また中国で新しいウイルスが発見されたと、ネットニュースの片隅に書いてあった。
 
 
 
また新しいウイルス。
 
 
 
でも、大きくて強いウイルスと戦って勝った私たちだ。負けるはずがないと世界中の誰しもが思った。
 
 
しかし、今回のウイルスは違った。
毎日驚くほど大勢の人が亡くなっていった。
 
 
 
埋葬だとか葬式だとかの話ではない。
本当に間に合わないのだ。
 
 
 
街にはいつも死臭が漂うまでになってしまった。
私は怖くて家を出ることが出来なかった。
自分がかかるのも怖いが、死んでいる人たちや腐りかけた人たちを見かけるのも怖かったのだ。
とにかく恐怖しかなかった。
 
 
食べ物は、最初の方に買いだめたものと、大地震のために備えた缶詰、ベランダに植えていた野菜などで細々と食いつないだ。
 
 
 
携帯のニュースやテレビのニュースも、最初は色々報道されていたが、あっという間に更新すらされなくなっていた。
世の中はどうなっているんだろう。
ごく一部の人のインスタやツイッターだけがかろうじて更新されている程度。
 
両親と毎日繋がっていた電話も、ある日繋がらなくなってしまった。
もしかして・・・という期待を残していたが涙がとまらなかった。
 
 
 
街は、たまに車が通る音がするだけで異様に静かだった。
家の中から見る空も異様に青くて美しかった。
鳥たちは、優雅にそして自由に飛んでいた。
 
 
家から他の人間の気配は感じることが出来た。
生きているのは自分だけではない。
それだけで安堵感を感じた。
 
 
一体どれだけの人たちが生き残っているんだろう。
 
 
 
後でわかったことは、
最初にウイルスばらまかれたのは、後にまかれるウイルスの抗体を作るためだったということ。
 
 
 
つまり、今地球上に生きている人達は、1度最初のウイルスに罹患して抗体が出来た人達だけだった。10%の命。
首相、大統領以外には高官、科学者、医者、各研究者は、生かされていた。
 
 
 
私は、The Chosen People Project (選ばれた民計画)によって、無作為に生かされた命だったのだ。
生き残った人々には、ワクチンが投与された。
このワクチンは何だろう?
信じていいのだろうか?
 
 
 
選ばれた私、残された私は
これから一人で何を信じてどう生きて行けばいいんだろう。
生き残ったことは幸せなのだろうか。
 
 
 
 
すでにジャングルのようになり始めている街を歩きながら
青く澄み切った空を見上げた。