コメの卸会社が取引する価格は5月以降、代表的な新潟産コシヒカリが前年同期比で6割高と、約13年ぶりの高値をつけた。8割高の銘柄も登場。2023年の猛暑でコメの品質が低下したことで、流通量が減ると同時にインバウンド(訪日外国人)回復で需要が膨らみ、品薄感が強まった。硬直的な生産・流通体制が家計の負担増につながっている。

JAグループの全農などが収穫シーズンに作付け状況や需給見通しなどを判断材料にして農家からコメを買い取る価格(概算金)を7〜9月にかけて決める。これがコメの基準価格になる。全農などが卸会社にコメを卸すことでこのコメが通年で市場に出回る。ここでコメの需給が反映され、卸価格が形成される。

日本経済新聞の調べでは、5月上旬時点で新潟コシヒカリの国内の卸価格は1俵(60キログラム)2万3150円前後。前年同期から約8650円上昇した。東日本大震災の影響で供給懸念が出た11年9月以来の高値水準になった。店頭では人気の秋田県産あきたこまちが2万3100円前後と、7割上昇している。     


政府は18年、米価を維持するために国がコメの生産量を調整する減反政策を廃止した。一方、減反政策をやめた後も主食用のコメの全国の生産量の目安を示した上で、麦や飼料用トウモロコシなどに転作した農家への補助金を継続しており、コメの作付けは減少傾向にある。そこに23年は猛暑が直撃。コメが白濁したり、精米加工の際に歩留まりが悪かったりして流通量が少なくなった。

コメの需給の指標となる全国の出荷・販売段階の民間在庫量は3月末時点で215万トンと前年と比べて36万トン(14%)少ない。在庫量を年間需要量で割った在庫率は31.6%と5年ぶりの低水準となった。

卸価格の高騰は川下の店頭価格に波及し始めた。全国のスーパーの販売データを集めた日経POS(販売時点情報管理)によると、売れ筋の大手卸会社が販売する「秋田産あきたこまち」(5キロ入り)は19日時点の平均店頭価格が1811.8円。前年同期と比べて23.5%高い。

価格上昇に拍車がかかったのは、供給が絞られたタイミングでインバウンド需要が膨らんだからだ。ファミリーレストランで使われることが多い割安な銘柄の一つである関東産コシヒカリ(千葉県産)は現在、60キロあたり2万2650円前後で前年同期比8割高い。冷夏で03年産が凶作になった影響で高値をつけた04年1月以来の水準に上昇した。

国産米に手を出しづらくなったことで、輸入米を手当てする動きが相次ぐ。主食用米として年間10万トンを上限に流通するSBS(売買同時契約)米は政府による23年度の入札ではこれまでに累計6万5532トンを卸会社などが落札した。前年の約5倍だ。都内のコメ卸会社の担当者は「外食店では、輸入米をブレンドしてコストを下げている」と説明する。

価格の高騰はいつまで続くのか。足元でコメの価格が上がったことで、農家は転作を抑制して主食用の生産を増やすとみられる。9〜10月頃に収穫される新米が出てくれば逼迫した需給が緩和される可能性がある。現時点で農水省は「価格がつりあがっているとの印象は受けていない」との姿勢を堅持する。

一方、昨年のような猛暑が続く懸念も残る。気象庁による5〜7月の予報では、全国的に平均気温は平年よりも高くなる見込み。卸会社が競うようにコメを確保する動きが広がったため、「少なくとも24年産米が出回り始めるまで価格は下がらない」と米穀店のスズノブ(東京・目黒)の西島豊造社長は指摘する。