篠つく雨 | sometime

sometime

こころのなかで鳴り続ける鐘の音。
だれかのために鳴っている。
愛するひとに伝えたい音。
それを、言葉にしたいだけ。。。

いつのまにか 強い雨が降っていた
「古都の秋には めずらしい」と マスターが つぶやいた

私たちは 店を出るタイミングを 失っていた
ふたりで過ごした日々のことを
あなたも思い出していたのだろうか

いつかのように「傘…」と 声をかけられたはず
でも マスターは何も言わなかった
ふたりで過ごす最後の時間に
割り込んではいけないと思っていたのだろう

雨はますますひどくなっていた 
私たちだけになった店内に
窓のガラスにあたる 雨の音が 響いていた

ふたりで 黙ったまま過ごした 一番長い時間
見つめ合うこともなかった
別れるふたりに 相応しい言葉などありはしないのだと思っていた

マスターと目を合わせて わたしは黙って店を出た
あなたは 窓のガラスにできる 雨の模様を 見つめていた

涙が溢れた
泣きたかったわけでもないのに 涙が止まらなかった
でも 拭う必要もなかった
雨が 体を突き刺すほどの勢いで降っていたから

わたしは歩いた 
古都の秋にはめずらしい 篠つく雨のなかを
『これで すべて 洗い流される』と思いながら