ITは、ドッグイヤーだと言われます。
ドッグイヤーとは、人と比べて犬は何倍も早いペースで成長し生涯を全うすることから、進化の速さを例えた言葉です。
ものづくり、ハードの技術と比べると、もちろん直接的な比較は難しいのですが、
確かに、技術革新のペースはとても速いように思います。
それはなぜなのかを、少し深掘りして考えました。
ものづくり、ハードの技術革新にとっても、学ぶべき点があるのでは、と思うためです。
ここでは、ソフトやサービスのITについて考えます。半導体やセンサーなどは、ハード、ものづくりと考えて、別にします。
一つ考えられるのは、
「物を作る必要がないから」
という点です。
製造業の製品開発では、顧客ニーズや企画・コンセプトデザインから、製品設計、生産技術の開発、生産ラインの準備、資材調達、試作、評価と、やることがたくさんあります。
もちろん、それらはITでも必要なプロセスを含みますが、ものを買い、準備し、加工する、というのは、とかく時間がかかります。
その点、ITでは、PCと開発環境があれば一通り足りるケースが多くなります。
コンピュータ上で、上記の大部分が完結します。
これは、大きな理由だと思います。
このことから、
ものづくりの製品開発でも、同じようにする工夫ができないかということを考えてみたくなりますが、
現在は、実際にそれが行われています。
例えば、シミュレーション技術が進み、設計と評価がコンピュータ上でできるようになっている分野が増えています。
試作づくりも、金型をつくらず、3D加工で直接つくることで、制作時間を短縮しています。
また、自社で全ての設備を保有するのではなく、開発のさまざまなプロセスを複数の企業で分担したり委託したりといった効率的な分業が、大手企業でも増えてきています。
それでは。もう一つ、理由を考えてみます。
技術革新、つまり、進化、というキーワードで、
思い当たるのは、生物の進化です。
ここに、ヒントがあります。
生物の進化のスピードは、その生物の寿命に関係します。
そして、生物の寿命は個体の大きさや複雑さに関係します。
歴史的に、大勢の人を死に至らしめた細菌やウイルスが多くありますが、人類は抗生物質の発明などによって、克服してきています。
しかし、抗生物質が効かないウイルスがすぐに生まれます。
特殊なケースでない限り、ウイルスを滅ぼすことは不可能と言われます。
人間に例えると、死んでしまうような猛毒が大量に散布され、多くの人が死んでしまっても、数年すると、その猛毒に平気になる、というような状況です。
そこまで急な進化は、人間には、無理じゃないかな、と思えます。
それは、ウイルスだからできる、ということですが、なぜできるかというと、
寿命が短く、あっという間に、何百、何千世代と、世代交代しているためです。
インフルエンザウイルスの世代交代は数時間と言われます。
個体が革新するわけではなく、世代が移るときに、突然変異が多数起こり、うまく環境に適応したものが生き残っていきます。
あまりにも世代交代が速いため、あっという間に進化する、ということになります。
少し脱線しますが、環境の変化よりも進化が早ければ、生物は生き残っていきます。
種は世代交代の速度を何倍も速くすることはできません。
その意味で、寿命の短い種ほど、種としては環境に強いといえそうです。個体の寿命は短いのですが。
であれば、環境の変化を何倍も遅くして、種の進化がそれを上回るようにすることが、種が生き残るために大切なのかもしれません。
話を戻します。
ITとIT以外のものづくりを、上記の生物進化の視点をふまえつつ比較すると、一つのことに気づきます。
それは、開発をするユニットの、個体サイズが違うことです。
ITでは、要素技術を開発するのは1人または2人です。
もちろん多数の人の前でレビューを行うこともありますが、基本的に、設計から制作、評価まで、最小単位のメンバー内で進みます。
軌道修正も、そのメンバーないのコンセンサスで完了します。
一方、ものづくり、とくに大きな組織での製品開発では、製品全体はもちろん、一つの要素技術開発においても、多くの人が関わります。
テーブル実験は一人でできても、その資材調達や評価設備まで全て一人で対応するケースはまれです。
そして小ロットであっても、実機スケールになると、多くの関係者が関わってきます。
例えば調達担当者、設備管理者、生産管理者、製造担当者、工場管理者、営業チームなどとの調整が生まれます。
部署のライン内でも、担当者、リーダー、部課長、本部長以上まで、権限と責任の関係があります。
ITでは、先に述べたように、関係者の数がずっと少なくなります。
組織自体がフラットなケースが多く、縦の階層はそこまで多くありません。
その差として、報告、意思伝達、対話、意思決定にかかる時間コストを想像します。
それは、大きな差となっているのではないでしょうか。
ITと、ものづくりの、革新速度の差は、ものをつくる必要があるかどうか、ということと合わせて、
関わる人の多さとそのコミュニケーションにかかる負荷の多さ、という理由がありそうです。
このことから、ものづくりの革新速度を上げるためのヒントが、みえてくるのではないでしょうか。