それからしばらく、愛美は夢見心地で過ごした。
身も心もふわふわしていて、

家でも学校でも、上の空という感じ。
おかげで、有香の言ったことまで

じつは夢のなかの話だったように思えてきたりもした。

実際、翌日も翌々日も雑誌からの連絡はなし。

そりゃそうか。
よく考えてみれば「連絡が来るかもしれない」というのは、

来ないかもしれないってことだもんね。

愛美は夢見心地から覚め始めたが、

有香と話をした4日後、連絡が来た。
一度、メールのやりとりをした編集の人から、
「副編集長が電話で説明するかたちになるんだけど、

いいかな」
というメールが来て「大丈夫です」と返すと、

数分後、その電話が。
その内容は、愛美を再び夢見心地にさせるものだった。

高校受験を控えた中川爽の活動休止をうけて

「ポスト爽ちゃんは誰だ?」という企画をやること。
その候補として、5、6人がリストアップされたこと。
まずは、サイト上で、

候補者の写真とプロフィールなどを掲載して、反応を見ること。

愛美はちょっと怖い気持ちも抱いたが、興味のほうが上回った。
それは、副編集長の誘導が巧かったからでもある。
やり手の編集者にとって、中学生をその気にさせることは、

凧揚げの名人が凧を上昇気流に乗せるようなものだ。

この人が言うように、記念のつもりでやってみようかな。
私は別に、本気で読モになりたいわけでもないんだしさ。

ただ、副編集長から「親の承諾」云々という言葉が出た途端、

愛美は少し現実に引き戻された。

「それって、どうしても必要ですか」
と問い返すと、
「いや、どうしてもってわけではないよ。
街角スナップみたいな企画なら、承諾はとらないし、

この企画も大々的なものではないから。

正式に読モデビューとなれば、話は別だけどね」
「じゃあ、承諾なしでお願いします」

そう言ってから、愛美は自分の度胸に驚いた。
と同時に、最近ますますうるさく感じる親を

これで見返せるような痛快さも味わった。

まぁ、いいや、どうせ気づかないだろうし。
それに、

親が干渉してきそうなことは内緒にしたほうがいい。
ダイエットもそうだけど、

秘密がいっぱいのほうが大事なものを守れる気がする。

雑誌から連絡が来たことを有香にメール。
すぐに返信が来た。

「それ、エミちゃんが選ばれるんじゃない?
だって、爽ちゃんより細いくらいなんだもん」

お世辞半分に思いながらも、

その言葉は快感のツボを心地よく刺激した。

爽ちゃんは151センチ29キロ。
私は150センチで27キロ。
その体重は撮影当時のもので、

今は26キロに近づきつつある。
ちょっとだけ、私のほうが細いのかな。
でも、こんなの誤差みたいなものだよね。

そういえば、明日は組体操の練習日。
あのあとは何も言われていないけど、

また、あんなこと言われたらイヤだな。

同級生から「意外と重い」と言われて以来、

愛美にとってこの練習は

少し憂鬱なものになってしまっている。

そのためにも、もっと痩せて、軽くならなきゃ。