1993年3月に行われた、ピエール・ブーレーズ指揮、ベルリン・フィルによるセッション録音の「ボレロ」です。

 

録音場所は、イエス・キリスト教会なので、良い音がしています。


作曲家でもあるピエール・ブーレーズがラヴェルの楽譜をどう読むのかが興味があります。

 

オーケストラがベルリンフィルハーモニーなので、ブーレーズの要求にはしっかりと応えてくれるポテンシャルはあるはずです。

 

微妙な言い方をしたのは、非力な指揮者だと、指揮者がベルリンフィルに引っ張られる可能性もあるからです。

 

とは言っても、「ボレロ」自体は音楽的に深みがある曲ではないので、速度や楽器間のバランス、クレッシェンドの仕方などがポイントになります。

 

ラヴェル自身も、AとBの2つの主題はアラビア系スペイン音楽のごくありきたりのものであり、画期的な新路線の曲でもないと語っていたそうです。

 

素人から見ると、ホルンを基音にして、ピッコロとチェレスタの倍音を加えることでパイプオルガンの音を模倣したり、テナーサックスでジャズの雰囲気を出したり、クライマックスでトロンボーンのグリッサンドを加えて独特の効果を出したりと、十分にいろいろな仕掛けをしているように思います。

 

こういった細かいことよりも、最弱音から最強音まで長い時間(ラヴェルによると17分)クレッシェンドして行く直線的な音楽が生む、特別な音楽体験を提供することが一番の目的だったようです。

 

ブーレーズの演奏を聴き進めて行くとすぐに感じることはソロの上手さです。

 

ベルリンフィルですから、当然のように危なげなところはは全くありません。

 

弱音器付きトランペットのソロの時にリズムを刻む第一ホルンの上手さは驚異的です。

 

パイプオルガンを模した部分ではピッコロ、ホルン、チェレスタのバランスが絶妙です。

 

この部分のバランスが悪いと、とても違和感を感じる音が出てくるのですが、これがうまくいっていない演奏は多くあります。

 

余裕を感じさせるトロンボーンのソロが終わると管楽器→弦楽器の合奏が始まります。

 

第一ヴァイオリンが加わるとこれからの音量増加を期待させるように音量がアップします。

 

第二ヴァイオリンが加わったあたりでは、ここでそんなに音量を上げてしまって大丈夫なのかと言うくらいの強奏になります。

 

演奏会でブーレーズの様にやられると心臓のバクバクする時間が長くなり、最後はどうしたらいいのかわからなくなるほどの興奮を得られるはずです。

 

こういったやり方は、ラヴェルの意図したものと違うかもしれません。

 

ラヴェルが意図していたのは「途方もなく長いクレッシェンド」であって、ブーレーズの様にグイっと音量を上げるような演奏ではないでしょう。

 

なめらかなクレッシェンドをしている演奏は、インマゼール率いるアニマ・エテルナの演奏ですが、感情を揺さぶるにはわかりやすい音量アップを組み込んだ演奏のほうがうまくいくように思います。

 

ブーレーズは、演奏時間がラヴェルの指定より2分程速いという事もありますが、十分に音楽の高揚感を得られる演奏だと思います。