小学生の頃は、父が買ってくれた実験の本が宝物で、試験管を買ってもらい、なにやら科学者のまねごとをしていました。
中学生になると、化学への興味は無くなり、高校生になると化学は苦手な教科の代表になりました。
そんな私が、このところ理科の教材を作る仕事を楽しくやっています。
二酸化炭素を石灰水の中に吹き込むと、石灰水が白濁するという実験は小学校では定番です。
石灰水のもとは石灰岩です。
埼玉県の秩父には、その石灰岩を採掘している山があります。
私は埼玉の熊谷育ちなので他県の方より武甲山に馴染みはあると思いますが、武甲山を想像すると居ても立っても居られなくなり、早速行ってきました。
武甲山は、こんな山です。
標高1304メートルですから、結構な高さの山です。
夜祭で有名な秩父市は、この武甲山の麓に広がっています。
セメントの材料となる石灰石を石灰岩の山から切り出したため、斜面は階段のような段状になったのでした。
見えている側は石灰岩ですが、反対側は主に花崗岩でできているため、このような姿が見えるのは秩父市側からです。
芝桜で有名な羊山公園に武甲山資料館があったので、そこにも行ってネタ探しをしてきました。
石灰石はセメントの材料になるだけではなく、乾燥剤、砂糖、皮革などとても幅広く利用されている資源である事がわかりました。
石灰岩のもとは、貝殻などカルシウムを持つ生物の死骸です。
日本は島国ですから、この資源は多く、実際輸入に頼る事なく調達できる数少ない資源です。
石灰岩があると言うことは、秩父はかつて海だったと言うことです。
武甲山の段になっている側が海だったことは容易に想像できます。
長瀞にある埼玉県立自然の博物館に行くと、全長12メートルの巨大ザメの復元模型など、太古に海だったことを知ることができます。
一つのこと、例えば石灰岩に着目するだけで、いろいろ気になることが芋づる式に出てきて興味が尽きません。
小学校の理科で、石灰水は二酸化炭素を吹き込むと白く濁るとして取り上げられますが、それだけで終わると、「だから何?」ということで終わってしまいます。
好奇心を持って対象を見れば様々な事が見えてくるのにもったいないことです。
たとえば石灰石の他に、自国で賄える資源は他に何があるのでしょう。
海に面した国は、どこでも石灰石を採掘できるのでしょうか?
歴史にも紐づけることができそうです。
だいぶ前に文科省によって「総合的な学習」が推進され、見事に失敗しました。
その原因はなんでしょう。
先生方の好奇心が弱かった?
そうかもしれません。
あるいは、自由な発想で授業を組み立てられない制約があった?
そんな気がします。
石灰岩を突き詰めると、サバイバルを乗り切る知恵を子供に与えられます。
石灰岩を細かく砕いて高温で焼くことにより、水と激しく反応する生石灰が生成されます。
その生石灰にアルミの粉末を混ぜて水を加えると高い熱を出します。
これを応用したのが、紐を引くと熱くなるお弁当です。
海苔などの袋に入っている乾燥剤は生石灰なので、いざという時の熱源になりますね。
アルミがあれば、削って粉にして生石灰に加えることで、調理用の熱源にもなります。
反応した時に出る気体は水素なので、もう少しイメージを膨らませると、ちょっとした武器も作れそうに思います。
こう言う事を知ることができる授業を受けていたら化学嫌いにはならなかったでしょうし、今とは違った道を進んでいたかもしれません。