ライブ盤は指揮者の気持ちが剥き出しになる場合があって、時々びっくりさせられる演奏に出会います。
たとえばカラヤン。
緻密に準備された解釈と録音。
オーケストラ音楽の録音技術に与えたカラヤンのこだわりは良く知られています。
CDに録音可能な最大時間は、カラヤンがベートーヴェンの第9が1枚に入いるように希望したから決まったと言われています。
そんなカラヤンですから、そのサウンドは、聴く前からだいたいこんな感じだろうと想像できてしまいます。
ところが1978年のベルリンフィルとの演奏は大違い。
ベートーヴェンの第7交響曲とストラヴィンスキーの「春の祭典」が収録されているこのアルバムでは、壮絶な演奏が繰り広げられます。
第7の第4楽章の後半の追い上げ方は凄まじく、その場にいたらどうしていいかわからないくらい心臓がバクバクするんじゃないかと思います。
実際、演奏が終わった瞬間に、待ちきれなかったような拍手の嵐が起こります。
カルロス・クライバーの同曲はグラモフォンから出されている第5と第7がカップリングされたウィーンフィルとのアルバムが手に入りやすく人気があります。
手に入ればおすすめなのは、バイエルン国立管弦楽団との1982年のライブ盤です。
加速感が見事です。
オーケストラ全体で加速しているのではなく、どこかのパートがもっと追い上げろと言う感じで煽っているように聞こえます。
第4楽章では高速道路をスポーツカーで突っ走っているようなスピード感を感じますが、クライバーが確実にドライブしています。
演奏時間は、全楽章で35分42秒なので取り分け高速演奏とは言えないのに高揚感が得られるのは不思議です。
演奏が終わった瞬間、聴衆は呆気に取られたのか、少し間が空いてからのブラボーになります。
しっかり準備され、気に入らない箇所はそこだけ録り直してつぎはぎを行い、指揮者が納得して世に出されるスタジオ録音は、繰り返し聴ける安定感があります。
それに対して一発勝負のライブ録音は、スリリングな面白さがあります。
爆裂系指揮者のコンスタンティン・シルヴェストリは、1964年の来日時にNHK交響楽団を指揮しましたが、その時「毎回同じ演奏になることなんてありえない」と言うような事を語ったそうです。
事実、楽団員はリハーサルとは異なった指揮に面食らい、ガタガタになった演奏が記録に残っています。
シルヴェストリの指揮のせいなのか、当時の実力なのかはわかりませんが、今のNHK交響楽団とは比較できないほど下手です。
これに懲りたのか、二度と呼ばれることはありませんでした。
その緊張感が良い方向に行くと一期一会の凄い演奏になるのでしょう。