本屋さんが大好きです。
ちょっと離れたところから本棚に並べられている本の背表紙を見ていると、読んでくれと言わんばかりに輝いて目に飛び込んでくる本が見つかります。
こういう経験をすると、本のタイトルはもちろん、サイズや厚さ、デザインは、選ばれるために重要だなと思います。
最近「熟年」「シニア」「起業」「すすめ」などのキーワードが使われている本が見られるようになりました。
このキーワードでネットを検索すると、類似する記事がたくさん出てきます。
中には、気楽に起業、楽しみながら起業というようなワードが見つかります。
熟年起業の時代、という事でしょうか。
寿命は長くなっているのに、65歳で定年を迎え、年金の受給のタイミングは、逃げ水のように離れていきます。
年金制度は、詐欺のように思うのは私だけではないでしょう。
受給する年齢を後ろにずらせば多くもらえると言うのは、国民にギャンブルをすすめているようなものです。
自分の寿命なんてわからないですから。
定年後にやっていくために必要と言われている2000万円という額は、年金だけでは毎月5万円程度足りなくなり、それを補填するために必要な金額とされています。
こういうことを考えると、定年後にも収入を得る手段として起業が言われることは理解できます。
私の場合、勤めていた会社を辞めてから20年たちますが、いまだにその時の年収の半分にも届きません。
それでも、働き続けている限り、少ないながらも収入は得られるので、年金分が余裕となります。
現状で生きていけているので、年金分は無いものとして貯金することもできるし、少し楽しむための資金にも充てられるかもしれません。
今やっている先生ロボットの実現には多くのテクノロジーが必要になるので、おそらく死ぬまで働き続けるのだろうと思っています。
だから、会社が倒産しない限り、年金分は余裕資金になる可能性があります。
だから、「熟年起業はやったほうがいい」と簡単には言えません。
その手の本には成功例が書かれ、自分もそうなりたい、きっとできるだろうと思わせる筆力があります。
でも会社を続けていくことは、そうは簡単なことではありません。
起業してスタートダッシュで会社が回るようになることはまれで、あと一歩のところで資金が無くなり、あきらめきれずに全財産を投入し、場合によっては借金をして、結局借金だけが残ることだってあります。
私の場合、45歳で退職した時に、今の退職金相場より少し多いくらいの退職金を手にしましたが、2年間できれいに無くなりました。
そんなことにならないように、たとえば300万円を上限と決めて、それが無くなったら手を引こうというやり方もありますが、そんな考えでできるほど起業は甘くありません。
熟年起業を薦める本や記事を見るたびに、不幸な人がどれだけ出るのだろうと心配してしまいます。
次の数字は、起業したうち、どれだけの会社が生き残れたかを表したものです。
・1年後 約40%
・5年後 約15%
・10年後 約6%
・20年後 約0.3%
・30年後 約0.02%
起業し、会社を運営していくには、強い気力と体力、失敗を恐れない気持ちの強さ、リスクから目を背けないで正面から向き合い、それを回避する方法をたえず考える気力などなど、たくさんの精神にダメージを与えるハードルが待ち構えています。
一方で、学生起業家の5年以内の失敗率は18.3%(中小企業庁2017年発表データ)とされているので、約80%は5年後も継続できている事になります。
若さゆえの体力と気力に加え、今の時代の風を肌で敏感に捉えることができているのだと思います。
熟年の優位点は経験ですが、経験は柔軟な発想を拒むことがあり、その経験や考え方が足かせになることがあります。
特に慎重すぎる人は起業には向かないように思います。
なかなか一歩を踏み出せないからです。
うまくいくと思っても、予想もしていなかったことも含め、日常的にトラブルは起こるので、とにかく一歩を踏み出し、たえず軌道修正して前に進んで行かなければなりません。
起業は簡単ですが、継続することは大変なのです。
だからと言って、何もしなければ、ずっと生活の不安を抱えていかなければなりません。
最近の65歳はまだまだ元気ですから、考え方に柔軟さがあり、気力と体力に自信があれば、起業にチャレンジしてもいいと思います。
あるいは、片手間に取り組むのではない仲間を集められれば成功の可能性が高くなるかもしれません。
でも、そういう仲間を集めるのは思ったより大変でしょう。
若い世代は自分で稼ぎださないと生活できないので必死になれますが、熟年層はとりあえず退職金や年金はあるので、なかなか必死になるのは難しいのではないでしょうか。
目標を低くして、具体的に設定するのも一つのやり方です。
目標を「年金不足分の5万円から10万円を継続的に稼ぎ出すための方法を考えよう」とすれば、実現性が高くなるように思います。
それでも社会は変化します。
始めたビジネスが上手く行っても、社会は変化します。
それに対応して行くには、やっぱり柔軟性と気力が必要になるのです。