「冬の旅」はシューベルトが亡くなる1年前に作曲された歌曲集で、「菩提樹」が良く知られています。
ざっくりと言えば、失恋した若者が、あてもない旅に出るという内容で、24曲の連作歌曲です。
ピアノ伴奏によりバリトンやテノールで歌われ、フィッシャー=ディースカウの録音が良く知られています。
ハンス・ツェンダーによる「冬の旅」には、「創造的編曲の試み」の副題が付けられています。
「創造的」の言葉に惹かれ、手に入れて聴いてみました。
「創造的」のキーワードで私がすぐに浮かぶのは、グレゴリオ・パニアグアの「ラ・フォリャ」です。
サイレンやチェーンソー、タブラなどが飛び出しながらも、フォリャのテーマが全体をしっかりと支えていて、とても楽しめるアルバムです。
ツェンダーの「冬の旅」にも、これを期待しました。
1曲目が流れたときに、期待を上回る内容に、ちょっと驚きました。
流れてきた音からは、いったいこの先どうなるのだろう、これでCD2枚が続いたら騒音かもしれないと思うくらい、過激な音でした。
そのまま聴き続けると、オリジナルのメロディーにのせて、テノールの歌が流れてきました。
全体としては、オリジナルのメロディーを使っていて、歌のバックを支えるアンサンブルに、ユニークな編曲が施されています。
ユニークと言っても、各曲のタイトルを連想させる編曲です。
ちょっとマーラーを思わせるところも登場するのは、ツェンダーの編曲というより、オリジナルの歌曲にそういうところがあるようです。
マーラーもシューベルトのオリジナルに影響を受けて、独特の世界を築いたのかもしれません。
大変楽しめるアルバムでした。