グレゴリオ・パニアグアの音楽と出会ったのは1980年台の初め頃だったと思います。
「ラ・フォリア」というタイトルのアルバムで、大変な衝撃を受けました。
グレゴリオ・パニアグアはアトリウム・ムジケー古楽合奏団を率いて、主にスペインの中世からルネッサンス期、さらに古代ギリシャまで遡ったかなりユニークなアルバムを出しています。
「ラ・フォリア」は、コレッリの「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ」が有名です。
私の好きなギター音楽でも何人もの作曲家がその主題を使って曲を残しています。
日本でも宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」の「ナウシカ・レクイエム」という曲で主題が使われるほど、数百年にわたって世界中で親しまれてきた主題です。
パニアグアは、このテーマを使って約40分にわたって過激な変奏を展開して行きます。
ケチャの音楽が登場するのはまだマシで、救急車のサイレンや、チェーンソウなども出てくるのでびっくりします。
もともと古代音楽やルネサンス期の音楽は、カルミナブラーナに見られるように、過激で遊び心にあふれています。
これを現代の要素を取り入れて再構築したのが、パニアグアの「ラ・フォリア」です。
録音は飛びぬけて良く、かの長岡鉄男氏が絶賛したこともあり、オーディオ好きにとっては注目されている録音で、今でもLPレコードは、かなりの高値で取引されています。
私も最近までLPレコードを持っていたのですが、うかつにも、聴かなくなったレコードに混ざり、人にあげてしまいました。
パニアグアのアルバムで、もうひとつ有名なのが「古代ギリシャの音楽」です。
マドリード郊外に持つ彼の工房で、36種類もの古代ギリシャの楽器を復元して録音したパニアグア渾身の1枚です。
この録音も極めてよく、他のアルバムも含めてブルーレイ・オーディオ・ディスクとしても発売されています。
レコードの帯にある推薦の言葉を抜き出すと次のような内容です。
・尋常ならざる生々しさ。骨太の生命力。一度はきいておくべきレコード。
(音楽評論家 黒田恭一)
・古代ギリシャの世界が初めて目の前に出現。
(東京藝術大学教授・民族音楽学 小泉文夫)
・アナログ、デジタルを超越した名録音。
(録音評論家 高城重躬)
・ぞっとするほどの生々しい優秀録音。
(オーディオ評論家 長岡鉄男)
パピルスや大理石に残された音楽の断片を想像力豊かに展開している音楽は、相当にユニークで、全く受け付けない人もたくさん出てきそうです。
パニアグアは「ギリシャ音楽を考古学的な遺物として扱うのは不適当で、・・・、われわれの個人的感情によって新しい生命を吹き込むことこそがふさわしいのではなかろうか」と語っています。
11曲目の「デルポイのアポロン賛歌 第2」という曲は、まるで三味線、鈴、太鼓で演奏される日本の曲のようです。
「ファンダンゴ」というアルバムは、ちょっと異色です。
パニアグアが電子楽器(鍵盤楽器)を使って録音しているようで、まるまる1枚、ファンダンゴという音楽が続きます。
何も知らないで聴くと、一昔前のテクノミュージックのように聞こえる曲もあります。
ある音楽雑誌の新譜紹介ページで、このアルバムのタイトルを「花よりファンダンゴ」として紹介していたことがあり、あきれたことがありました。
「ラ・スパーニャ」というアルバムは、15世紀から17世紀のスペインの古い音楽を集めた内容で、有名な「シシリアーナ」のテーマも優雅な演奏で登場します。
「ラ・フォリア」のような驚くような展開はありませんが、楽器編成を変えながら続く32曲の小品は、まったく飽きさせません。
もちろん、録音も超優秀です。
「ビリャンシーコ」は、15世紀後半から16世紀前半に生まれた楽しい音楽を味わえるアルバムです。
「ビリャンシーコ」はスペインの歌曲の形式のひとつですが、もともとの語源は「村人」「田舎の人」のような意味で、村人や平民の歌ととらえて聴くと、風景も浮かびより楽しめます。
グレゴリア・パニアグアが取り上げた古い音楽は旋律だけであったり、断片的なものがほとんどでしょう。
それを見事な想像力を駆使して、古い音楽としてではなく、現代に登場しても斬新さを感じさせるアレンジで組み立てた、グレゴリア・パニアグアという音楽家の奇才ぶりには驚かされます。