数年に一度くらいの割合で、ふと聴きたくなるアルバムというのがいくつかあります。
その一つがこれ。
タイトルがすごい。
The Glory(????) of the Human Voice
四つの?は、タイトルの一部です。
「人間の声の栄光????」ですね。
「夜の女王のアリア」(モーツァルト)は、とにかく笑えます。
信じられないくらい音程がとれず、リズムもだめ。
音域も広くないのに、高度なテクニックが必要なこういう曲に挑戦するジェンキンス女史には驚きます。
「音楽の玉手箱」(リャードフ)や「鐘の音」(ドリーブ)も、まるでサイレンのようで、壮絶です。
どちらも技巧が必要な曲で、もう少し歌いやすい曲を選べば、鑑賞に堪えるアルバムになったかもしれません。
でも、そうすると、今の時代までアルバムとして残らなかったでしょう。
父親の遺産を相続してからは音楽活動に積極的になり、とうとうカーネギーホールを使ってリサイタルまでやってしまいました。
聴衆から出る笑いも、自分の実力に対するやっかみだろうと捉えていたという前向きさにはおどろきます。
もっとも、本人は自分は音痴ではないし、すぐれた音楽家の一人だと思っていたようです。
笑いを堪えていた人達で、大盛り上がりだったとい休憩時間のロビーの様子は想像できます。
本人は、大真面目でやっていたからこそ笑えます。
狙ってやっても面白くないでしょう。
わかった上でショウとして行くのであれば、おなかをかかえて笑える時間を過ごせそうです。
時期は、ちょうど第二次世界大戦の真っ只中。
このコンサートは、娯楽に飢えていた大衆にぴたりとはまり、当時の貨幣で6000ドルの純益をあげたそうです。
そして、その1年後、ジェンキンス女史は、心臓麻痺で亡くなりました。
アルバムの最後に入っている「フィナーレの三重唱」は、テノールとの二重唱+ピアノで、ここでのジェンキンス女史は、なかなか上手い!
と思ったら、ジェニー・ウィリアムスという別の人が歌っていたのでした。
ではなぜ、このアルバムに、この演奏を入れる必要があったのか?
実は、テノールの、トーマス・バーンズが、鼻声でとても下手なのです。
男性版ジェンキンス女史と言いたいところですが、やっぱり、彼女の足元にも及ばない。
感心するのは、ピアノ伴奏。
ジェンキンス女史がどんなに崩れても、しっかり伴奏しています。
探してみたら、こんなアルバムもありました。
FLORENCE FOSTER JENKINS & FRIENDS
Murder on the High C
「Murder(殺人)」というのが、すごいですね。
どんなFRIENDSが登場するのかと期待していたら、みなさんお上手で、後半は、普通のアルバムになっていました。
前半8曲は、先の内容とダブっていました。
ダブりは知っていたのですが、後半8曲が聴きたかったのと、このジャケット写真がほしくて。。。
「私の歌は最高なのよ。だから、しっかり聴きなさい!」と言っているような表情はたまりません。
購入するなら、トーマス・バーンズの歌が3曲入っている前者のほうがお勧めです。