カラヤン指揮の「ボレロ」2つです。どちらもベルリン・フィルとの演奏です。


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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮   16分17秒

ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 

録音:1977年
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落ち着いたテンポの「ボレロ」です。グラモフォンに録音したものと比べて1秒しか違わないことに驚かされます。カラヤンの中で、「ボレロ」のテンポはこれ、という基準があるのでしょう。


グラモフォン盤と違って、ハープのタイミングのズレはありません。見事に統制のとれた「ボレロ」と言えます。あまりに統制がとれているので、1966年の録音と比べると面白さは欠けます


小太鼓はグラモフォン盤と比べると、小さ目な音から開始します。徐々に存在感を増し、ヴァイオリンが旋律を奏でるあたりから、両サイドに小太鼓が移動したように聞こえる点は、グラモフォン盤と似ています。オーケストラのたくさんの楽器と対等以上の音量で叩かれる小太鼓は存在感抜群です。


カラヤンが来日したとき、試用期間中だったトロンボーン奏者が「ボレロ」でミスをしてしまい、そのおかげで正式採用されなかったという話があり、それを聞いているせいか、録音ものでもトローンボーンには耳をそばだててしまいます。トローンボーンは、曲が始まってからずっと出番が無く、ソロとしていきなり難易度の高い高音域から吹き出さなければならないため、非常に緊張するらしく、ほかの楽器の奏者も気になる箇所のようです。


この録音では、見事なトローンボーンのソロを聞かせてくれますが、そのすぐあとヴァイオリンのピチカートで音程を外しているのが聞こえるのは、うまくトローンボーンが切り抜けてくれたのでほっとして油断したヴァイオリン奏者がいたということでしょうか。


グラモフォン盤と比べた印象では、EMI盤は統制が効いた構造物のような「ボレロ」、グラモフォン盤は随所に勢いや聞かせどころをちりばめた、余裕のある「ボレロ」ということができます。これは、最後のトロンボーンのひと吹きだけ比べても感じます。



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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 

ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 16分18秒

録音:1966年
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カラヤンという指揮者がよくわからなくなる「ボレロ」です。


カラヤンは、録音技術の向上に大変な貢献をした人です。マスターテープを録音スタッフとプレイバックしている写真も見かけます。


聴き始めると、まず小太鼓の存在感に耳を奪われます。1960年台の録音なので、おそらくイエス・キリスト協会での録音だと思いますが、残響から空間の広がりが感じられます。


私の再生環境に原因があるのかもしれませんが、面白いことに、小太鼓の聴こえ方はヘッドフォンとスピーカーでは異なって聞こえます。ヘッドフォンでは、まるで左右に小太鼓が置いてあるように聞こえ、スピーカーでは正面中央奥にあるように聞こえます。


より自然な音場再生ということでは、私の再生環境では、スピーカーに軍配が上がります。ちなみに、ヘッドフォン(インナーイヤー型も含む)は、STAX、ゼンハイザー、シュアー、B&O、テクニカを使い分けていますが、どれも同じ印象です。スピーカーは、ELACの330です。


こういう違いを経験すると、ヘッドフォンでの鑑賞は、音量を出せない環境で音楽を楽しむための、やむをえない手段に思えてしまいます。


話がそれてしまいました。


ヴァイオリンが旋律を奏でるあたりから小太鼓の音量があがり、聴こえてくる方向も左に移動し、小太鼓の残響が大きく右から聞こえてきます。まるでもう1台右に配置されているかのようです。


もともと小太鼓は最後のほうで1台追加されるのですが、ちょっと追加のタイミングが早すぎます。もしかすると、カラヤンは、都合3台の小太鼓を使ったのかもしれません。このあたりを楽しむには、スピーカーでの再生がよさそうです。


この残響が曲者。35小節から登場するハープが、びっくりするほど小太鼓とタイミングがあっていないのです。ひと呼吸遅れてハープがリズムを刻みます。この2つのリズム楽器のずれに乗って旋律を奏でるソロも大変です。


音の伝わる速さは、音が伝わる空気の温度によっても違いますが1秒間に約340mです。小太鼓から10m離れていれば、その位置に音が到達するまでには約0.04秒かかります。


このカラヤンの演奏は16分18秒=978秒で、全部で340小節ありますから、1小節の時間は約2.9秒です。1小節に16分音符は18ですから、小太鼓の1発は0.16秒の長さになります。ということは、小太鼓から10m離れていると、小太鼓1発の長さのだいたい4分の1くらいタイミングが遅れてしまうことになります。オーケストラの一番離れた楽器どうしでは、もっとずれが起こるわけで、この意味でも指揮者というのは重要な役割があるわけです。


こういう事情があるせいか、演奏会でステージを見ると、小太鼓が指揮者の近く、かつオーケストラの中心付近の第2ヴァイオリンの後ろに配置されることがあります。


さらにやっかいなのは、ホールの残響です。


大きなホールの最後部の席では、ほとんどが反射音で、耳に聞こえてくる直接音は1000分の1ともいわれています。イエス・キリスト協会は豊かな残響が魅力的な場所ですが、この問題は無視できないでしょう。


素人の耳でもはっきりとわかるタイミングのずれですから、カラヤンが見逃したとは思えません。常識的に考えれば録り直しレベルのずれです。あれほど録音にこだわったカラヤンが、なぜ、とわからなくなります。


ちなみに、このハープが登場するところからリズムを刻む第2フルートが第1フルートと入れ替わるように楽譜に書かれているのですが、この入れ替わりをはっきりと気づかせてくれたのはカラヤンのこの演奏でした。


トータルとして聴いてみると、実に美しい「ボレロ」で、特にヴァイオリンのトゥッティの美しさはさすがにベルリンフィルだなと感じますが、ちょっと悩ましい「ボレロ」でもあります。



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