2002年7月13日土曜日、目黒の都ホテルで先生のデビュー30周年記念パーティーが行われました。
門下生や、東京学芸大学ギター部OBを中心に、先生にご縁のある人がたくさん集まりましたが、先生の具合が悪いことを知っていて、おそらく先生と話が出来るのは最後かもしれないと思って出席した人がほとんどではなかったかと思います。
その席で、相当の無理をして演奏してくれたのがトローバの「ブルガレーサ」です。弦を押さえる力も十分ではなく、演奏はミスも多くたどたどしいものでしたが、ラミレスからはいつもの先生の美音を聞くことができました。ただ、記憶が続かないらしく、曲がエンドレスになってしまい、全体を3回くらい繰り返したと思います。
パーティーの最後に、「集中がウルトラマンのように3分以上持続しなくて、これが持続するようになれば、なんとか復帰できるのかなと、はかない望みを持っています」と話されたのには胸が痛みました。
こういう演奏では申し訳ないと、アストリアスとラグリマを演奏されたのですが、おそらくブルガレーサを最後の演奏曲目として考えていたのだと思います。
さて、この曲のレッスンの話です。
レッスンに使ったのは、先生がセゴビアの録音から採譜したもので、オリジナルは嬰ヘ長調ですが、コピーはホ長調となっています。先生の楽譜を見ると、Copied by Hirata. Jun 9 1968 とありました。先生が26歳の時になります。これは先生が松田晃演氏に師事した最初の年です。
この手の歌のある曲については、先生はとても厳しく、なかなかOKが出ませんでした。音価を守って弾くような演奏はもってのほかで、十分に歌わせた演奏を要求されました。
旋律が引き立つように、たとえば2小節目の和音は、3弦の1フレットでとった最高音のソをを残して他は全て8分音符として消音し、続く3つのソは4弦の6フレットでとるというような工夫をしていました。
この、主旋律の音以外を消音してメロディーを浮き立たせるテクニックは、ある意味で楽譜を無視したものですが、歌のある曲には大変効果的な方法で、秘伝を教わったような気持ちになったものです。レッスンしていただいた曲以外にも、ここぞという旋律でこの技を使うことを覚えました。
また、この曲には多彩な音色変化も要求されました。調が変わってからの和音は、Pの腹で弦をなでる程度にしてかすかに響かせ、コントラストをつけます。これはなかなか難しく、Pの爪の右側が伸びすぎていると爪の音が入ってしまい、効果があがりません。
静寂間のなかに、たっぷりとした歌が聞えるようにあの手この手を使って演奏するのが、この曲のポイントだと思います。
短い曲ですが、ブルガレーサは、歌わせ方、音色変化のつけ方、強弱、Pの表現などのテクニックを通して、自分のギターに対する思いや楽器のコンディションを確認するために欠かせない曲になっています。そして今は、先生の面影を自分の音を通して確認するための大切な曲にもなっています。
(記:2002年9月11日)
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